「違うよ〜この子はね」
「無理しなくていいんだよ! だって洋顔色悪いよ!」
「え」

 僕と会計様の思わず零れた声が被る。…こいつ、会計様の顔色が悪いの僕の所為だと思ってるわけ!? お前のせいだろ! そうやって怒鳴りたかったけど、僕が発言すれば会計様の迷惑になるかもしれない。

「…これは、他の件でね。えっと、この子はさ、友達なんだよ」

 チラリと僕を見る。友達という表現に少し嬉しくなった。…本当は、そんな親しい関係ではないけれど。

「友達…?」

 転入生の顔が一変する。侮蔑するような視線に僕は一歩後退った。会計様は笑顔を浮かべて僕の手を掴んだ。

「ちょっとこれから用事あるんだぁ。じゃあねー」

 ぐいっと手を引かれて僕は歩き出す。後ろを振り返ると、転入生が何かを言っていたけど、その声は聞こえなかった。




 暫く歩いて行くと、会計様がパッと手を放した。

「…ごめんね」
「いえ…」
「なんか最近こんな感じでしつこくてね〜」

 そう言って会計様は笑う。無理に作った笑顔だからか、何だか痛々しい。生徒会室にいたときの笑顔と全然違う。僕は見ていられなくて顔を逸らした。

「態度が変わったということでしょうか?」
「…ん〜。まあ、そう、かな。いや、どうなんだろう。俺が目を覚まして千聖の悪いところが見えて来ただけなのかも」
「そうですか」

 だったら、やっぱり会長様も早く目を覚ましていただかないと。じゃないと、この学園は――。

「あ、」
「どうかなさいましたか?」

 会計様の失敗した、という顔に首を傾げる。

「いやー、社の連絡先、訊くの忘れちゃったなーと思って」
「社の連絡先…」

 …。あ、僕、知ってる、けど…。教えて大丈夫かなと不安になる。社の不機嫌そうな顔が頭に浮かび、少し迷った後、僕は携帯を取り出した。

「あの、教えましょうか」
「えっ、ほんとー?」
「はい」
「ありがとー」

 そう言って本当に嬉しそうに笑うから、やっぱり会計様にはこういう笑顔が似合うなと僕も笑い返した。
 …けど、よく考えてみたら、どうしてそんなに喜ぶんだろう。……まさか、ね。
 訊くのが怖くて、僕は喉まで出かかった疑問を呑み込んだ。