(side:幸樹)

 階段を駆け下りると、壁に背を預けて不気味な笑みを浮かべた片桐が俺を迎えた。荒い息を整え終わらないうちに男を怒鳴りつける。

「さっきのはどう…いうことだよ!」
「どうって、そのままの意味に決まってんだろ?」

 先程届いたメール。それには…。

「まさかあの会長があの狐面だったとはねェ」

 あの狐の正体があいつであるということが書かれていた。俺はばくばくと鳴る心臓を抑えながら男を睨めつける。

「…あいつなわけ、ないだろ」

 そうは言っても――否定はしきれなかった。あいつの反応は確かにどこかおかしいところがあったし、副会長は理事長の息子。口で言い合っている姿はよく見かけるけど、そういえばあまり険悪な雰囲気になったところは見たことがない。あれは…演技という可能性がある。
 いや、それは今はどうでもいい。…何故、こいつが知っているんだろう。俺は男をじっと見つめた。まさか、風紀との会話を聞かれていた?

「そうかあ? テメェが自分で言ってただろ、いいとこの坊ちゃんだってよ」
「だからって、それがあいつだとは」
「それに、権力がある」

 男はニヤリと笑った。

「あんだけ大騒ぎして理事長も教師も何も言ってこないなんておかしいだろ?」

 風紀と同じことを言っている。俺は言い返せずに、唇を噛む。あいつなんてどうでもいいはずなのに、ムカついて仕方ない。この男の次の発言は容易に予想できた。

「会長なら金をガッポリ取れんだろうなァ」

 テメェより。そう言って嫌みな笑みを浮かべる男に舌打ちをする。どうにかしてこいつを止めないと――。いや、それよりもこのことをあいつか副会長に…。

「ヘェ? それは聞き逃せねえ言葉だな」
「…っ!?」

 突然割って入ってきた声に二人してびくりと肩を揺らす。いつからいたのか、風紀委員長が目を細めて男を睨んでいた。この前と全く同じ状況だ。

「なっ…!」
「テメェを張ってて正解だったぜ」

 男は大きく舌打ちをして走り去っていく。それを冷めた目で見送った風紀委員長はチラリと俺に視線を向けた。

「お前、あいつに何かバレるようなこと言ったのか」
「言ってねーよ…。でも、この前、話を聞かれていたかもしれない」
 そう言うと、風紀委員長は深い溜息を吐いた。