(side:翔太)

 走り去っていく淳也の背中を見ながら、追いかけないとと思うけれど、俺が行ってまた傷つけてしまったら。そう思うと、足が鉛のように重く感じ、動いてくれなかった。横目で会長を見る。何か考えるように淳也の走っていった方を見ている。会長は、こうやって記事になることを確信していた。その理由が、淳也を揶揄うため――? それだけでは、何だか腑に落ちない。
 会長は楽しげに口を歪めた。獲物を狙う獰猛な獣のように、細めた目で前を見据えている。俺は思わずごくりと喉を鳴らした。

「あの…」
「あ? どうした?」

 パッと威圧感が消えて俺に向けられるいつもの顔。それに安心したような、モヤモヤするような…何とも言えない気持ちが生まれる。
 周囲から誹謗中傷が聞こえてきて、居心地が悪くなる。これが淳也だったら、聞こえないんだろうなと自嘲する。会長が鋭い視線で周りを黙らせた。

「…俺、そろそろ行かないと」
「ああ、もうこんな時間か。教室まで送ってやる」
「…ありがとうございます」

 俺は笑って会長の好意を受け取る。会長も微笑んで歩き出した。
 会長は優しい。だからこそ、俺は不安だった。


 
「じゃ、また昼な」
「はい」

 教室をチラリと見て踵を返した会長の背中を見送る。俺は少し緊張しながら教室に足を踏み入れた。自分の席の隣――淳也の席に、淳也は座っていなかった。小さく息を吐いて、自分の席に向かう。教室内は矢張り、淳也たちの話でもちきりだった。他のクラスの人たちと違うのは、実際に見たか、見ていないかだ。

「ああ、明松。ほら、本当だったでしょう?」

 高木が俺に気づいて話しかけてくる。…知ってる。会長から直接聞いたし。そんなこと言えばまた会長に近づくなと煩くなるだろうから言わないけど。
 俺は顔を逸らして、頷いた。

「うん、やっぱり美形二人だと目の保養だわ」

 掲示板から取ってきたのだろう。俺を一瞥した後、うっとりとした顔で呟く。それは…俺だと似合わないって言いたいのか。ムッとしながら、俺も写真を見つめた。淳也は確かに強面で背も高いけど、体格ががっしりとしてはないし、眉間の皺がなかったら少し幼く見える。だからこの写真はあまり違和感を感じないんだと思う。