(side:井手原)

 去って行く社の後ろ姿をじっと見つめる会計様。その顔はどこか明るい。僕はほっと息を吐いた。そして今更ながらに罪悪感が僕を襲った。日に日に弱っていく会計様を見ていられなかった僕は、社を騙してここへと誘い出した。裏切られた、という顔をする社が脳裏に浮かぶ。

「井手原くん、ありがとうね」

 それは何のお礼なのか。仕事のことか、それとも社のことか。どっちの意味も込めてなのだろうけど、きっと後者だろう。その言葉に笑って返すけど、心にずしりと重りが乗った。社は会計様と会長様の弱みを握ろうとしているということは会計様に言っていない。…言ったら、どんな顔をするだろう。あまり、考えたくはない。
 社も会計様の姿に驚いて、気を遣ったのか元々言うつもりがないのか、そのことは口にしなかった。

「あの…」
「ん〜?」
「転入生、のことですが…」
「…んー」

 会計様は苦笑した。以前まではっきりと好きだと言っていたのが、こうまで変わっている。この調子で会長様も目を覚ましてくれれば良いのだけど。
 生徒会室用行きのエレベーターから降りて廊下を歩いていると、声を掛けられた。

「あれ、洋?」
「あ…」

 にこにこと笑みを浮かべてこっち見ているのは、転入生だった。一瞬会計様の顔が強張り、直ぐに笑顔になった。僕はそれに感心し、会計様を見上げる。

「…あれ、キミ…徹の親衛隊長…だよね?」

 転入生が僕をとらえた。すっと目が細められ、ちくちくとした視線が僕に刺さる。それに気付いた会計様が一歩前に出て、僕を隠すように立った。

「何か用〜?」
「うん、洋、最近付き合いが悪いからどうしたのかと思って」
「えっと、ちょっと忙しくてさぁ」
「そうなんだ…ちょっとでも無理?」
「うん、ごめんね?」

 悲しそうな顔は、庇護欲を掻き立てる姿だけど、僕は見た。一瞬歪んだ口を。誰の所為でこうなっているんだと言いたくなる。

「もしかして、その人に付き纏われてるの?」

 転入生の言葉に、僕と会計様は呆然とした。…僕が付き纏ってるように見えるわけ、こいつには。