ただいまと言いながら部屋に入る。いつもは田口からおかえりと返ってくるが、今日はしんとしていた。まだ戻っていないのかと思ったが、靴があるのでそれはないだろう。防音なので部屋に入っているという可能性もある。
 まあどうでもいいかとリビングに行けば、ソファで爆睡している奴の姿。顔には大きな湿布が貼られている。体の半分がソファからはみ出ていて、今にも落ちそうだ。
 ……自分の部屋で寝ろよ。じっと観察していると、ソファ亜から垂れた腕がピクリと動き、顔をしかめたかと思うと寝返った。あ、と思った時には顔面から床に落ちていた。

「いっ……! っでぇ…!」

 悲痛な声と共に勢い良く頭を上げて、追い討ちをかけるように後頭部がテーブルの角に当たった。ゴッという音に俺も青ざめた。今のは、たんこぶができたんじゃないだろうか。声にならない悲鳴を上げて、頭を押さえながら今度はそろそろと上げる。

「…大丈夫か」
「え、……あ、ああ、社、帰ってきてたのか」

 笑っておかえりと言ってくるが、涙目だし顔が引き攣っている。

「そうだ、生徒会室行ってきたんだろ? どうだったんだ」

 痛そうに顔を歪めながらも首を傾げて今日のことを訊ねてくる。俺は今日のことを思い出し、溜息を吐いた。不思議そうにする田口に一言、別に、と言う。

「いや、別にって顔してねえし…っててて」
「お前も凄いことになってるな、色々と」
「あー。それがさ、クソ卑怯な奴がいてよ」
「ふーん…」
「おい、あからさまに興味ないですみたいな雰囲気を出すな」

 どうでもいいんだよ、と言うと田口は諦めたように笑う。そういえば、世津もここまで酷くないとはいえ、怪我を負っていた。喧嘩で卑怯っつうと…武器持ってたり集団だったりか?

「…多分ここの生徒だと思うんだが……顔隠してやがったからな」

 そう言って田口は考え込む。不良関係でこいつに分からないことが俺に分かるはずがない。俺はうんうん唸っているのを聞きながら欠伸をした。