寮に着いたのは夕方だった。疲れてたからさっさと部屋に戻りたかったが、世津に見つかり舌打ちしそうになった。しかし世津の顔を見て、思わず頬を凝視した。誰かに殴られた痕が存在を主張している。俺の視線の先に気付いた世津が、へらりと笑って怪我を指差した。

「男前度アップしたっしょー?」

 凄く痛そうに見えるが、本人は全然痛そうにしていない。本当に痛いのか、そこまでないのか。どっちにしろ…喧嘩をしてできた怪我だろう。

「社クンはどこいってたの?」
「…どこでもいいだろ」
「冷たいなあ」

 ふふ、と笑う世津の顔も充分冷たい。俺はその目から逃れるように逸らして、世津の横を通り過ぎようとした。しかしそこで逃がしてくれないのがこいつ、世津という男だ。

「今日は皆で喧嘩しに行ったんだけど〜社クンは来てなかったよね」

 静かだったでしょ。そう言う世津に適当に頷いてあしらう。今日はずっと生徒会室に行っていたから静かさを感じることはなかった。

「……戸田の件、ちゃんとわかってるよね?」

 ギクリとする。…こいつ、今日俺が生徒会室に行ったことを知っている? いや、知っていてもおかしくはないか…。田口はこいつと一応友達だし。

「分かってる」

 言いながら、どうしてこいつは戸田の弱みを握りたいと思っているのだろうと考える。同族嫌悪だけで、ここまで執着するだろうか? 脳裏に戸田の窶れた顔を思い出し、ズキズキと頭が痛くなる。
 せめて戸田の顔色がよくなるまで、世津のことは口にしなようにしよう。倒れて仕事がまた溜まりだしたら風紀に迷惑がかかる。

「…ふうん? じゃ、宜しくね」

 何か含みのある笑みを残し、横を通り過ぎる。俺は振り向いて、世津の背中を睨んだ。