(side:誠春)

 あまりにもしつこく訊いてくるのでざっと説明すると、ゆるゆると目を見開いた後、納得したように頷いた。
 先に生徒会室を出た井手原が戻ってきて、このフロアに奴らがいないことを教えられた。俺はジトリと井手原を睨む。

「つまり書記の件も俺をおびき出す餌だったつーことか」

 書記の件は嘘だと言える証拠はないが、俺が来てから書記がこっちに向かって来ているなんてこともなかったし、どうにも怪しい。井手原はぎくりと肩を跳ねさせた。

「い、いや…その…。ごめん」

 ハアと溜息を吐く。いつからグルだったのだろうと考えて、ハッと数日前のことを思い出す。俺は戸田の弱みを知りたいと言ってしまっているが、それはこいつにも伝わっているんだろうか?
 そんな様子は見られないよなと思いながら戸田を観察していると、視線が合った。パチパチと目を瞬かせて首を傾げる。今までなら甘いオーラでも出ていたかもしれないが、今では病人のそれ。俺は言うべきか迷って、視線を逸らした。……恐らく、井手原はこいつにあのことを言っていない。それは俺の為か、戸田の為か…。まあ、戸田の為だろうな。こんな今にも倒れそうな奴にこれ以上負担をかけたくないに違いない。

「社?」

 不思議そうな声が投げかけられ、俺は再び戸田に視線を戻した。

「…社って呼ぶな」
「へ?」
「俺がここに入ってるってバレたらやばいだろ。それがリコールされた社なら尚更」
「…じゃ、じゃあ何て呼べば?」

 誠春、と言いかけてやめる。こいつらに誠春なんて呼ばれたら、思わず鳥肌立つかも。

「マサ、とか」
「マサ? ああ、えっと、誠春って名前なんだっけ?」
「ああ」

 戸田はわかったと言って顔を緩ませる。井手原にも視線を遣ると、驚いたように戸田を見て、直ぐに表情を戻すと頷いた。
 そして漸く、俺たちは生徒会室を後にした。