「――あ゛ー…」 隣から漏れた声に、俺は申し訳なくなった。結局教えてもらうだけじゃなくて、仕事を手伝ってもらってしまったのだ。断ったんだけど、高槻に迷惑がかかると言われた。……高槻って、何、どういう関係なの? とは流石に訊けなかった。訊く権利なんて、俺にはない。――その高槻は風紀委員長の高槻なんだろうなあ、とぼんやり考える。そういえば、あいつは最初から最後まで社を嫌った素振りも見せなかったし、リコールには反対していた。 「それで、どうすんの?」 「え?」 「お前、これからずっと一人…っつか、井手原とやってくつもり?」 「それは…」 そんなの、無理に決まってる。いつまでも親衛隊の子にやらせるわけにもいかないし、やっぱり皆に戻ってきてもらいたい、けど。 『今、忙しいんです。見てわかりませんか?』 副会長に仕事をして欲しいと言いに行ったのを思い出す。冷めた目で俺を睨んでいた。社は良くあんなのに耐えれたよねえ…。 俺の言葉も聞いてくれない状態で、どうやって仕事をさせたらいいんだろう。俺は救いを求めるように社に視線を遣ったけど、社はこっちを見ていなかった。 「……今日はもう終わりだ」 「えっ! でも」 「終わりだ。……お前さ、取り敢えず一回ゆっくり寝ろよ。見てて気分悪くなるし」 「う、うん…」 自分でも分かってるけどそうやってハッキリ言われると傷つくよ、結構…。冷めた紅茶を一口飲んで、小さく息を吐く。 そういえば社、Zクラス、なんだよね…。傷一つないけど、実は喧嘩とか強いのかなあ。体細いし全然強そうじゃないけど。 さらさらな髪が顔にかかるのをじっと見ていると、社が小さく舌打ちをしてこっちを睨んだ。 「んだよ」 「いや、えっと」 無言の圧力に耐え切れず、俺は思ったことをそのまま口にした。 「…社、だいぶ雰囲気…変わった、よね?」 「ああ」 ……。……? えっ! それだけ!? もっとなんかないの!? 「あ、そうだ! 眼鏡、眼鏡してたよね。あれは?」 「あれ、伊達」 伊達だったの!? 何故!? あの眼鏡全然お洒落じゃなかったよね! それに前髪が長くてろくに顔も見れなかっ――ハッ。も、もしかして何か深い事情があって素性を隠していたのかも…。ごくりと唾を呑み込む。恐る恐る訊ねて見ると、井手原くんが視界の端で苦笑した。 「いや、別に。ただ賭やってただけ」 あ、あれー。 → |