(side:戸田)

 ごめん。俺はデスクに向かう社に向かって心の中で呟いた。何度謝っても罪悪感がこびり付いて消えてくれない。

「会計様」
「…社に会わせてくれて、ありがとね?」

 この子がいなければ、俺はずっと一人で仕事をして、ここで倒れて、でも誰にも気づかれなくて――。そう考えて、ぞっとする。こんな書類で溢れた部屋で過労死、なんて嫌だ。俺にはこの子がいたけど、社には…いなかったんだ。一人で、仕事してたんだ。何で俺は気づかなかったんだろう。何で俺はあんなに社を嫌ってたんだろう。ぐるぐると色んな感情が渦巻いて、どろどろに溶ける。

「おい」

 怒りを含んだ声がかけられた。俺はハッとして社に駆け寄る。その際ふらりとしたけど、先程より心も体も軽い気がする。社がいるということが心強いなんて、初めて感じた。

「ヒデェ顔」

 俺の顔を見てぷっと噴き出す社に顔が熱くなった。毎日セットしていた髪もセットする時間がないからボサボサだし、充分な睡眠が取れないから隈も酷いし。
 ……ていうか。俺はじっと社の顔を見る。社って、こんな顔だった? いやいや、これだったら絶対親衛隊出来て騒がれてる筈だ。それにこんなハキハキ喋ってるところなんて見たことがなかった。元々そんなに関わりがなかったし俺が一方的に嫌ってたから社のことは殆ど知らないんだけど。でもこんな感じではなかったと断言できる。
 まあ、その件は後で訊くとして、今は折角社が教えてくれるって言ってくれてるんだから、気が変わらない内に教わらないと。俺は分からない書類を手に取って、社に差し出した。

「えっと、これなんだけど…」

 おずおずと出した書類を見て、社が呆れた顔をした。

「お前これ、Excelじゃねえか。会計なのになんでできねえんだよ」

 うう、耳が痛い。簡単なものならできるけど、勉強をサボっていたせいか、ちょっと応用が入ってくると訳が分からなくなった。

「…因みに、井手原はExcelできるのか」
「それが…」

 遠い目をする親衛隊の子を一瞥し、社が視線を俺に向けた。意志の強そうな目に、ドキリと心臓が跳ねる。俺は取り繕うように苦笑して、パソコンを一台指差した。

「それ、壊すくらい機械音痴だったんだ」

 社はポカンとして、そんな馬鹿なと呟いた。…俺も、まさかExcelしててパソコンが壊れるなんて思ってなかったよ。