『今会計様が来た』
 
 予想通りの内容に、視線を上げてドアを見た。どうするべきか、俺は口に手を当てて考え込んでいるとスマホが再び震え出し、メールの受信を示した。

『すぐに仮眠室に入って寝ちゃった。凄くお疲れみたいだ』
「疲れ、ねえ…」

 苦い思いをしながら呟く。何で疲れているかは知らないが、あの顔は矢張り疲れからきているのか。少し前の自分を見ているようで、気分が悪くなった。
 さて。あれだけ疲れた顔して寝たのなら、直ぐに起きては来ないだろう。ならば書記が戻ってこないうちに行くべきだ。
 俺は念のため周囲を確認し、なるべく足音を立てずに廊下を歩く。心臓が音を立てて自然と歩く速度が速くなる。
 ――そして、ドアを、開けた。
 ギイイ、と音を立てて開くドアは以前よりも重くなっているように感じた。

「…は、」

 俺は中の光景に唖然とした。積み上げられた書類、相変わらず無駄に広い部屋。しかし、何よりも俺を困惑させたのは。

「…社、なの?」

 酷く窶れた戸田が立っていたからだ。俺は井手原を睨めつける。

「…騙したのか」
「……ごめん、でも」

 所詮親衛隊。信じた俺がバカだった。チッと舌打ちをして踵を返すと、後ろから焦りの声が聞こえた。

「待ってよ!」

 誰が待つかよ。胸糞悪い思い一杯で生徒会室のドアを開けようとすると、腕を掴まれた。ひんやりとした感触にぞわりと鳥肌が立つ。仕方なく振り返ると、勢い良く手を振り払った。

「あ、の…ごめん、社、俺」

 小さく呟かれた謝罪に、カッと頭に血が上る。

「…んだよ、今更。そんな謝罪いらねえんだよ!」
「ごめん、…」

 土下座しようとする戸田を慌てて止める井手原。ムカムカとする感情を抑えてぎゅっと拳を握り締めた。

「今更、都合良いってわかってるんだ。でも…、仕事が」

 止める井手原を手で制して床に手を付くと、頭を垂れた。井手原が悲痛な顔で俯く。

「仕事が、終わらないんだ…」

 今にも泣きそうな震え声に、眉を顰めた。