いつも親衛隊の奴らに見つからないように生徒会室に行っていた道に入ると、周りを気にしながらエレベーターに乗り込んだ。ここで誰か生徒会役員が乗り合わせてきたらとヒヤヒヤしたが、問題なく最上階に辿りついた。あっさり来れたのは安心したが、やはりあいつらは来ていないのかと思うと呆れる。
 井手原から送られてきたメールに、立花が先程ふらりとどこかへ行ってしまったと書かれている。胸糞悪くなりながら了解のメールを送信し、誰もいない廊下を歩く。今まで通いつめていた場所だからか、何だか懐かしい。来たくて来てたわけじゃないが、それなりに愛着が湧いていたかもしれない。

「…ん?」

 遠くに人影が見えて、立ち止まる。誰だか知らないが、見つかるとヤバイ。俺は角に隠れてそっと様子を窺った。ふらふらと危なっかしい足取りで近づいてくる人物を見て目を見張った。
 ……会計、か、あれ?
 俺の知っている会計は、ホストクラブにいそうな風貌の男で、いつも胡散臭い笑顔を絶やさない。そんなやつ、だが。今は幽霊にでも取り憑かれたように顔色が悪い。あいつに、何があったんだ…?
 仲が物凄く悪かったとはいえ、一応仕事仲間だった奴だ。気にならないといえば嘘になる。口元に手を遣って考え込みながら、仕事に追われていた俺もあんな顔をしていたなと思い出す。部屋の鏡で自分の顔にぎょっとしたのはいつだったか。
 どこに向かっているかというのは愚問だ。この階には生徒会室しかない。完全に無駄だが、それだけ厳重であることが窺える。だからこそ、親衛隊を入れ、仕事をさせているという責任感のなさに腹が立つ。個人情報を扱う重大さが分かってないんだ、あいつらは。

「…つうか、あいつが入ったら俺が行けねえだろ…」

 よりにも寄って、弱みを握ろうとしている本人がいる中で調べろというのは無理だ。あの様子じゃ追い出されることはないかもしれないが、それはそれで気味が悪いし結局調べられねえし、バレたら侵入しにくくなる。
 戸田が生徒会室の重々しいドアを開けて中に入る。井手原はまだ中にいるだろうか。戸田の様子をあいつは知っているかもしれない。スマホを取り出すと、丁度メールが届いた。