あ、馬鹿! そんなにあからさまに反応したら転入生に見つかるだろうが!
 顔をこれでもかと歪めて睨むと、ハッとした顔で転入生を見た。

「どうしたの? 恭佑」

 挙動不審になった諸星を不思議そうに見上げる転入生がこっちを向――きそうだった時、諸星が転入生の視界を遮った。

「な、なんでもねえ! 行こうぜ」
「うん?」

 誤魔化し方が下手すぎるだろと溜息を吐きながら、心の中で礼を言う。まさかあいつに庇ってもらう日がくるとはな。俺はもう一度諸星たちの方を見て、早足でその場を去った。





 数日振りに足を踏み入れた校舎内は、相変わらず無駄に豪華に飾ってあった。掃除に勤しんでいる清掃員を横目に、廊下を歩く。

「あ、あの!」

 目の前にゴテゴテに化粧の乗った奴が現れた。俺は足を止め、冷めた目で見下ろしながら何、と返す。
 …こいつ、化粧だか香水だかしんねえけど、臭すぎ。

「名前、何ていうんですか!?」
「…名前?」

 周りのやつらが良くやったという表情で俺たちを見る。

「はい!」

 チッと舌を打つ。目の前の奴がびくりと震えて、更に苛立ちが増した。俺が社だとは一ミリたりとも疑っていないらしい。…ま、そりゃそうか。こいつらは顔と家柄しか興味がないんだからな。

「何で?」

 そんなことを訊かれると思っていなかったのか、戸惑った顔を見せる。

「ぼ、僕、あなたのことが知りたくて」

 もじもじと体を揺らしながら上目遣いをする奴に、げっとする。キモい。女子かよ。つか女子でももっと可愛くするわ。
 早く立ち去りたくてにこりと笑いかけると途端に顔を真っ赤にした。

「うっぜ」
「え…」
「うざいっつってんだよ。俺はお前らみたいなのが嫌いだ。だから名前も教えたくねえ。――じゃ」

 ふんと鼻を鳴らして横を通り過ぎる。ざわざわと騒がしかった廊下は、俺の足音だけしか聞こえない。
 ポケットの中でスマホが振動して、取り出すとメールが来たことを示すランプが光っていた。差出人は高槻。開くと、あんまり目立つなと一言だけ記されていた。
 ……別に目立ちたくて目立ったわけじゃねえよ。つうか、今の見てたのか。首の後ろをポリポリと掻いて、何度目かの溜息を吐いた。