周りに人の姿はなく、鳥の鳴き声と俺たちの足音だけが耳に入る。気まずくないわけではないが、話すことがないので黙って足だけを動かしていた。数分後、コンビニが見えてきたところでいつの間にか隣に並んでいた諸星が、話しかけてきた。

「いつもこの時間に買いに行ってんのか?」
「…時間は分かんねえけど田口と交代で来てるからいつもではない」
「田口と仲いいのか」
「さあ」

 何か言いたげな顔をする諸星を置いてさっさと店内に入る。軽快な音と店員の爽やかな声に迎えられた。その店員は俺に気づくと、にこりと笑みを浮かべる。

「おはよう、社くん」
「おはようございます」

 彼はこのコンビニでバイトをしている花平さん。この学園のOBで、今は大学二年生だ。俺が行く日は花平さんもシフトが入っていることが多く、少し会話するようになった。ま、世間話程度だけど。
 花平さんはどこかの国の王子のような煌びやかさがあって、優しく雰囲気も柔らかい。どうしてそんな人がZクラスのコンビニで働いているのか、と疑問に思ったが、なんと花平さんはZクラス出身らしい。こう見えて喧嘩は強いのだとふんわり笑いかけられた。まったく見えないが、嘘を言っているようには見えないし、いつ会っても無傷だし、笑顔が絶えることはないので本当なのかもしれない。
 花平さんは人好きのする笑みを浮かべて、隣の諸星を見た。

「今日はお友達と一緒なんだね」

 その言葉に俺たちは顔を見合わせる。
 ……友達? 諸星と俺が? いや、ねえわ。

「違います」

 溜息混じりに言えば、目をぱちくりとして首を傾げる。そしてふんわりと笑った。

「そうなんだ?」

 そうです、と言い切ると、花平さんは少し眉を下げてどこかを見ている。その視線を辿ると、雑誌コーナーの壁に手を付いていた。その横顔は暗い。

「まあ、そりゃそうだよな…、いやでも…」

 ぶつぶつと何かを呟いていて気味が悪かったので俺はパン売り場に足を運ぶ。今日は焼きそばパンなるものを買いに来た。焼きそばとパンを一緒に味わえると聞いていて、楽しみだったんだ。この前食べたカレーパンも中々旨かったので、それも買おうかな。