(side:誠春)

 あの日から何事もなく毎日を過ごしていた。時々突っかかってくる奴らがいるが、今のところ田口が追い払ってくれるお陰で未だ無傷だ。峯岸と世津も、特に何かをしてくるわけでもない。高槻から聞く現状も、大きく変わったところはない。

「あ」
「…げ」

 朝食を買いに部屋を出ると、丁度近くの部屋から人が出てきたところだった。出てきた人物に自然と眉が寄る。

「げ、って…」

 傷ついたような顔で漏らすその人物――諸星は、何故か近づいてきた。俺はその横を通り過ぎようとしたが、逃がさないとばかりに腕を掴まれる。

「放せよ」
「…どこ、行くんだ?」

 おい、無視か。
 ギロリと睨みながらコンビニ、と言うと諸星の顔が少しだけ緩む。そして反対に、腕に加わる力が強くなった。

「俺もコンビニ行くんだよ」

 だからなんだよ。と言おうとして、黙る。諸星は偉く緊張した様子で、視線をうろうろとさせていた。俺は大きく舌打ちをして、俺の腕を掴んでいる諸星の手首を掴む。俺の手首よりも太いそれを一瞥して、諸星を見る。俺の行動が予想外だったのか、手と顔を交互に見ていた。

「放せ」

 先程と同じ言葉を言う。数秒の沈黙の後、手が解放された。それと同時に俺も手を放す。

「一緒には行かねえからな」
「社、」
「でも目的地は同じなんだろ」

 何か言いたげな諸星にそう言って背を向ける。歩くと、ワンテンポ遅れて足音が続いた。沈黙が続き、何だか居心地が悪くなって口を開く。

「お前、まだ転入生のこと好きなの」
「――分かんねえ」
「なんだそれ。自分のことだろ」

 フン、と鼻で笑ってやる。諸星は何も言わなかった。

「千聖が生徒会に入ってからは…なんつーか、…いや、なんでもねえ」

 本性を出し始めたってか? それともまったく相手にされなくなった? 生徒会役員と違って、落ちぶれた不良だから。そんな理由で、あいつなら簡単に自分の取り巻きを捨てる性格をしている。もう顔も思い出したくなくて、脳裏に浮かんだあの「愛らしい」顔を真っ黒に塗りつぶした。