井手原のことを言おうと思ったら田口が出て行ったので、田口に任せることにした。

「誠春、…何か問題はないか?」
「ない」

 ぶっきらぼうにそう言うと、安心したように顔を緩ませる。目の下の隈が目立って、胸が痛んだ。あいつらは遊んでいるのに、どうしてこいつが苦労しなければならないんだ。

「怪我もないようだし、良かった」
「……親父に報告すんのか」

 ふ、と鼻を鳴らして笑う。高槻はムッとした顔をして俺の両肩を掴んだ。

「俺は、伯父さんに頼まれて今まで誠春と付き合っていたわけじゃねえ」

 風紀委員長の時とは違う、崩れた口調に懐かしさを覚える。風紀委員長に指名された時、この口調では風紀を正す者として相応しくないと言っていたのを思い出した。

「俺は、これからもお前と仲良くしていきたい。迷惑…か?」
「寧ろ俺が迷惑をかけるだろ」

 顔を歪めて言えば、高槻はそんなことないと首を振る。俺は手を伸ばし、目の下を撫でて舌打ちをした。

「こんなに疲れさせたのは、俺の所為でもあるだろ。これ以上お前の負担を増やしたくない」
「これは俺が未熟だからだ。お前は関係ねえ」

 俺の手首を掴むと、高槻は嬉しそうに笑った。どうしてそんな顔をするのか分からず、じっと高槻の笑みを見る。

「ありがとな、心配してくれて」

 別に心配したわけじゃねえ。そう言って手を払う。簡単に手は解放され、俺はそっぽを向く。ふ、と笑う声が聞こえて顔に熱が集まる。兎に角顔を見られたくないと思って、俯いた。

「お前がどんなに嫌がっても、俺はお前と関わり続ける」

 どこかで聞いたセリフだなと思っていたら、ドアが開いて田口が顔を出した。

「おい、社ー。まだかよ?」

 ……ああ、田口が似たようなこと言っていたな。思考が似ているのか、こいつら?