風紀委員長の高槻が俺のことで騒ぎを起こせば、色々な問題が生じる。それにあいつらだと逆に面白がる可能性もある。

「…僕には生徒会の皆様を裏切ることができない」

 そう言って、井手原は俯く。俺は黙ってそれを見つめた。井手原はぐっと手を握ると、顔を上げた。迷いのない顔だ。

「でも、今の生徒会の皆様は…どうにかしたいと思ってる。キミの安全のこともあるし、出来るだけのことはやってみるから」

 …あんまり期待はできそうにない。やっぱり親衛隊の隊長として、対象を危険に曝すことはできないんだろう。でも、それならば。

「井手原には生徒会室を開けて欲しい」
「…僕は鍵を持っていないよ」
「それなら生徒会室に行けるような状態だったら連絡しろ」

 俺はカウンターに置いてあるチラシを取り、裏に連絡先を書く。それを井手原に渡した。

「え、っと…」
「取り敢えず受け取れ。連絡するかしないかは任せる」

 おずおずと受け取ると、両手で持ってじっと紙を見る。そんなに食い入るように見るものではないが、まあいいか。

「社、は…生徒会の皆様が嫌い?」

 顔を曇らして言う井手原は、もう答えを知っている。俺は口角を上げて言い放った。

「大嫌いだね」

 図書館に沈黙が落ちた。空気の読めない田口も、流石に今は黙って様子を窺っている。もう用は済んだことだし、そろそろ帰るとしよう。そう思い、一歩踏み出した時。

「…誠春」
「あ?」

 高槻が俺を呼び止める。高槻はチラリと田口と井手原を見た。井手原はハッとして慌てて出て行った。あいつが一人で来るのが危ないから付いて来たのに、一人にしたら危ないんじゃねえのか。