「井手原、つったな」
「えっ、あ、うん…そうだけど」
「親衛隊らしいな」
「う、うん。…?」

 戸惑った様子で俺を見上げてくる井手原に、先程受け取ったシャープペンシルを見せた。

「これを生徒会室で見つけたんだよな。俺のデスクか」
「そうだよ。今は転入生が使ってる、けど…」

 …矢張り、あの転入生を生徒会に入れたか。しかし、それで親衛隊が生徒会室に入っているとなると…転入生と遊んでばかりで仕事をしていないな、奴らは。フンと鼻を鳴らすと、びくりと震える井手原。見た目が小動物なだけに、傍から見たら俺がいじめているように感じるだろう。

「仕事、してねえんだな」
「……そう、だよ」

 チラリと高槻を見ると無言で頷いた。良く見れば高槻の顔には疲労が浮かんでいる。生徒会の奴ら、マジ一度死ねばいいのに。

「お前、確か会長の親衛隊だったな。まだあいつのこと好きなの?」
「それは――」

 井手原の瞳が揺れる。まだ嫌いではない様子だ。こいつがどれだけあいつのことを好きだとか知らねえけど、あいつは転入生しか見てねえわ親衛隊の扱いは酷いわ仕事はしないわで最低なのに健気だねえ。
 でも好きだと胸を張って言えないってことは、少なからずあいつに対して不満があるってことだし、まあ…いけるか?

「どうしてそんなことを?」
「別に。ただ頼みたいことがあってな」

 ニヤリと笑うと、井手原は一瞬顔を顰めて、探るような目で俺を見た。

「会計と会長の弱みを握らないといけなくなってな」
「ま、まさか…それを僕にやれというの?」
「誠春、それは」

 二人の咎めるような目が俺を見つめる。俺は肩を竦めて溜息を吐いた。

「復讐とかじゃねえよ? 俺はあいつらに興味はないし、これから持つこともない。ただ、俺の身の安全がかかってんだよ」
「それって…」

 田口が口の端を引き攣らせて恐る恐る言った。俺は頷く。

「世津と峯岸に脅された」
「は!? 峯岸さんまで!? それは流石に俺も止められねえぞ」

 田口の顔が青くなるのを見て、高槻が顔を大きく歪めた。嫌な予感がして、俺は口を開く。

「高槻、止めろよ」
「……っ、だが…」

 食い下がろうとする高槻をギロリと睨む。高槻はチッと舌打ちをして顔を逸らした。