放課後。田口に人気のない場所を訊いたら図書館だと言われたので、そこで会うこととなった。隣でそわそわしている田口に落ち着けと注意する。

「こんなとこ初めて来たぜ」

 この静かで本に囲まれた空気が受け付けないと嫌そうに本棚を睨む。他の奴らも似たような理由でここに寄り付かないのだろうか。いい情報を手に入れた。
 ガラリと音がして、ドアの方を向くと高槻の姿があった。最近会ったはずなのに、懐かしく感じた。

「よう」
「――誠春」

 一度俺の名前を声に出して、ハッとしたような顔になる。高槻のことだから、名前を言ってしまったと慌てているのだろう。

「高槻、名前のことはもういい」
「そうか…」

 強張っていた顔を和らげさせて中に入ってくる。その後ろには小さい奴がいる。そいつが親衛隊の隊長だろう。高槻は俺の隣にいる田口を睨みつけた。田口も一瞬目を見開き、睨み返す。

「おい社、こいつ風紀じゃねえか」

 やっぱり知っていたか。取り敢えず睨み合うのをやめろと言う為に口を開いたが、親衛隊に遮られた。

「社…え? 社!?」

 驚きの声を上げて俺を指差すそいつに頷けば、大きな目をパチパチとさせて口をぽかんと開ける。どこかで見たような顔だが、女顔の奴がいすぎて良く分からない。でも隊長だったら一度は会っていると思う。

「噂になってたのって…社だったんだ…」

 噂? 何のことだ…?
 心当たりが見当たらず首を傾げると、田口を睨んでいた高槻がこっちを向いた。

「お前の顔が噂になってんだよ」
「はあ?」
「…高槻先輩は、社と仲がよろしいのですか…? それに、社の性格も…」

 未だ驚いた顔をしている親衛隊――井手原が声を固くして言う。

「まあな。性格とか顔のこととかは面倒だから説明しねえ」

 隣で田口がやっぱりと声を漏らした。そういえば田口にも面倒だから言わない的なことを言ったな。
 井手原は暫し黙り込み、頷いた。俺はそれを見て手を差し出す。

「じゃ、俺の忘れ物とやらを渡してもらおうか」
「あ、うん」

 出原が鞄から取り出した物は――青いシャープペンシル。そのシャープペンシルは…。

「はい」

 手に乗せられたそれを、俺は黙って見つめた。