「…生徒会長親衛隊隊長の井手原だな」

 僕を見る目が少し厳しくなった。僕は一礼をして、足を進める。それを近くの風紀委員が止めようと立ち上がったけれど、高槻先輩が手で制した。「ですが」不満げな声を上げた後、高槻先輩に睨まれて渋々椅子に座った。
 僕はそれを確認してもう一度足を進める。左右から視線が突き刺さっているが、親衛隊隊長なんてものをしていたら嫌でも注目を浴びるのでさして気にならない。高槻先輩のデスクの前まで来ると、僕はもう一礼をした。

「忙しい中申し訳ありません。二年A組の井手原祐里です。ご存知の通り、会長様の親衛隊隊長を務めさせてもらっています」
「それで用件というのは」

 急かすように高槻先輩が言葉を放った。仕事に戻りたいのだろう。心がちくちくと痛むのを感じながら口を開いた。

「Zクラスに行きたいんです」
「――…は?」

 ざわりと風紀室の空気が揺れた。一瞬ぽかんとした高槻先輩は直ぐに顔を顰めて首を振った。

「何を考えているのか知らないが、それは止めた方がいい。キミが行っても標的にしかならない」
「だからここに来たんです。一人だけでいいので、付いて来てくれませんか。時間も取らせません」
「しかし…」

 言い淀む高槻先輩をじっと見つめる。僕が退かないことを悟ったのか、溜息を吐いた。

「何をしに行くつもりだ? それによって答えは変わる」
「生徒会の皆様の仕事の整理をしに行った時に、社のデスクに忘れ物を発見したので、渡しに――」

 そう言った瞬間、高槻先輩の目の色が変わった。社が仕事をしていたことを知っていたこの人は、社のことで自分を責めていると聞いた。しかし、それだけではない気がする。もっと、別の何かで落ち込んでいるような…。

「分かった。俺が付いていこう」
「え」
「ええっ!?」
「何言ってるんですか委員長!」

 高槻先輩の言葉にぎょっとする風紀委員たち。僕の護衛だけで委員長が立ち上がるなんてとんでもない。僕も首を振って遠慮する。

「俺も、まさ…いや、社に用がある」

 強張った顔で、静かに呟いた。