くるくるとペンを回してぼおっとしていると、隣の子が不思議そうに僕を見た。脱隊したが元親衛隊の子で、僕と一緒に彼を嫌っていた共通点がある。

「何だか機嫌がいいね」

 ぼとっ。
 ペンを机に落とし、コロコロと転がっていくそれを慌てて止めた。

「どうしてそう思うの」
「だって、顔笑ってるよ」

 さっと顔に手を遣る。まさか、顔に出ていたなんて思わなかった。隣の子はそんな僕をにこにこと見ていたが、直ぐに顔を暗くさせて小さく溜息を吐いた。

「キミのそんな顔、以前の…転入生が来る前までは見れていたのに」

 僕は黙った。隣の子もそれ以上は言わなかった。僕はペンを持ち直し、もう一度くるりと回す。頭には、哀れな元書記の顔が浮かぶ。今、どうしているだろう。元生徒会とはもう知れ渡っているんだろう。生徒会を良く思っていないZクラスの人は少なくない。何か問題に巻き込まれていなければ良いのだけれどと心配が募る。僕からの心配なんて嬉しくないだろうけど。
 それに。このシャープペンシル。態と置いて行ったかもしれないと考えるとこのまま処分すれば良いのかもしれないけど、矢張り一度は本人に直接渡したい。言っておくけど別に怪我していないかとか様子が知りたいわけじゃないから。

「僕、行ってみようかな」
「どこに?」
「……Zクラス」

 隣の子の顔が険しくなる。危険なのは承知だ。でも僕は彼のプライベートなことを何一つ知らないから、渡せる場所というのはZクラスだけなのだ。なに、まさか一人で行くなんて無謀なことはしない。

「風紀から一人、借りようと思ってね」

 立ち上がって言うと、隣の子は安堵の息を吐いた。




 風紀室にいる面々は、何れも疲れた顔をしていた。生徒会の仕事が回ってきているのか、それとも…学園が荒れてきている所為なのか。

「失礼します」

 室内に入っても気づかれなかったため少し声を張って言うと、皆が重々しい顔を上げた。

「……何か用か」

 風紀委員長の高槻先輩が、姿勢を正して僕を見た。目の下の隈が主張して、綺麗な顔が台無しだ。仕事を増やしていた一人として、罪悪感で胸が締め付けられた。