(side:???)

「――あれ」

 彼のデスクの引き出しを開けて僕は目を丸くした。持って行き忘れていたのか、筆記具などの私物が入っている。僕は無意識の内に青のシャープペンシルを手にとっていた。くるくると回しながら、彼の名を紡ぐ。
 僕は彼のことが嫌いだった。過去形であるのは、僕が愚かなほどに視野が狭かったと気づかされたからだ。

「あ、どうしたのっ?」

 明るく無邪気な声にびくりと体を揺らす。顔を上げれば、ドアのところに転入生が立っていた。横には副会長様がいて、僕を汚らわしいものでも見るような目で見ている。

「あなたは」

 副会長様が警戒の目で僕を睨んだ。僕は居心地の悪さに思わず目を逸らす。ぎゅっとシャープペンシルを握りこんだ。

「そこで何をしているのです」
「別に、何も…」

 俯いたままだったのがいけなかったのかもしれない。副会長様は態とらしく溜息を吐いて、ツカツカと音を鳴らして近づいてきた。

「そこはもう千聖の場所です」

 視界の端で転入生が嬉しそうに笑う。彼のいた場所は、転入生の場所となった。散々親友などと言っていたくせに、座を奪うことに罪悪感も感じていないらしい。それどころか――転入生の浮かべる笑みは、勝ち誇ったものだった。
 しかし、転入生が仕事をしているところなんてまだ一度も見ていない。生徒会役員は唯一の仕事の出来る人材を追い出して、自分たちの仕事を親衛隊に押し付ける。これが将来会社を引っ張っていく人間かと絶望したのはつい先日だ。

「出て行きなさい」
「でも」
「仕事をしたいから出て行って欲しいな、ごめんね?」

 僕は見た。ざまあみろという表情を。僕は、何故騙されていたんだろう。そしてこの人たちは、いつ目を覚ますのだろう。

「…はい」

 シャープペンシルを隠すようにして、頭を下げる。早足で生徒会室を出ると、会計様がこっちに向かってきていた。どこか青ざめて見えるのは、気のせいではないはずだ。
 僕は声をかけようと思ったが、会計様は僕の方なんか見もせずに横を通り過ぎていってしまった。