「おもしれえことやってんじゃん」

 突然聞こえた声に二人して横を見ると、右肩を壁に預けた峯岸がニヒルな笑みでこっちを見ていた。俺は驚いて目を見開く。…いつからいたんだろうか。まったく気づかなかった。

「俺も気に食わねえ奴いんだよ」

 嫌な予感がする。俺は立ち上がって慌ててその場を去ろうとするが、こいつらが逃がしてくれるハズもなく、ものの数秒で捕まった。

「まだ話終わってないでしょ〜」

 ぎりぎりと手首を締め付ける音が聞こえ、痛みに眉を寄せる。もし本気で力を込めていないのだとしたらと考えて青ざめた。

「まさかアンタも弱点を…」
「俺の場合セイトカイチョーの邦平だけどな」

 ……もしかして。
 世津はチャラ男会計の戸田、峯岸は暴君会長の邦平。……同族嫌悪ってやつか。気に食わないってだけの理由なら呆れて物が言えねえんだけど。
 ニヤアと不気味な笑みを浮かべる切と峯岸から視線を外し、盛大に溜息を吐いた。




 あの後教室に戻った俺は、田口曰く物凄くげっそりとした顔をしていたらしい。心配そうな顔で頻りに保健室と言っていたが適当にあしらった。因みにあいつらは最後に脅してフラフラと廊下の先へ消えて行った。
 そして今。騒がしい食堂へと訪れている。俺としては売店で済ませたかったのだが、田口に無理矢理連れて来られた。何でこいつらこんなに力が強いんだよクソ。

「あ…」

 席に着いてメニューを見ていた時のことだった。頭上から思わず漏れたというような声が聞こえて顔を上げる。そして即座に視線を逸らした。

「社?」

 空気の読めない田口が不思議そうに見てくるが無視。チラリと一瞥すると、そいつ――諸星はハッとした顔をして慌てて去って行った。取り敢えず関わらなくて良かったが…あいつ一体どうしたんだ?

「おい、社! 注文!」
「うっせえ! 耳元で叫ぶな!」

 急かしてくる田口を睨み、俺は再びメニューに視線を落とす。よし、今日はカレーにするか。
 俺は諸星のことを頭の端に追いやって、これから食べるカレーを思い浮かべた。