「…まあ、いいや」

 無表情で吐き捨てると、俺の方へ手を伸ばす。ヤバイ、と思った瞬間には胸倉を掴まれて壁に押し当てられた。

「…っ!」
「社クン――いや、誠春くんにお願いがあるんだけどさ」

 これが人にお願いする態度かよ。睨みつけると手の力が強くなった。息が苦しくなって顔を歪める。嘲笑うように口の端が上がった。

「生徒会の戸田――あいつの弱点でもなんでもいいから、探ってきてよ」

 こいつの口か戸田の名前が出てきたのは二回目だ。戸田の弱点…? 何故俺にそんなことを言うんだ。視線を足元にやって考えていると、足を踏まれた。あまりの痛みに声にならない悲鳴が出る。

「聞いてんの」
「…っ、き、てる」

 世津の手を掴んで放そうとする。声が聞き取りにくかったのか、パッと放され俺はずるずると床に座り込んだ。酸素が急に入り込んで咽る。

「何で俺に…」
「社クンは生徒役員でしょ。ああ、正確には元だけど」

 だからなんだと見上げると、世津は蹲みこんだ。嫌らしい笑みを浮かべた顔と視線が合う。

「俺はこんなんだしさぁ、生徒会室はおろか校舎にもろくに入れないわけよ」
「…俺だってもう入れない」

 つーか、生徒会室になんかもう入りたくねえし。

「それに、お前に従う理由がない」
「そーなんだよね〜。折角調べたのに時間の無駄だよ」
「戸田のことも調べればいいだろ」
「調べれない理由があるんだよねぇ。まあ、俺の頼み聞いてくれたらさ、社クンに手出さないって約束するから」
「……聞かなかったら?」
「リンチコース」

 にっこり笑って即答する世津に、顔が引き攣った。こいつ、人が喧嘩出来ないからって調子に乗りやがって。

「…さっきも言ったように、俺はもう役員じゃねえんだぞ」
「忘れ物したとかなんとか言って入れないの?」
「簡単に言うなよ」

 こいつ生徒会室なんだと思ってんだ。個人情報や重要書類置いてあるのに簡単に入れるわけねえだろ。