「ちょっと社クンに話があるんだ」

 生徒手帳片手ににっこりと笑みを浮かべた世津の後に続いて教室を出た。田口がついて来たがっていたが、世津が何もしないと約束をしてしぶしぶ諦めた。それでもまだ表情が強張っていたのは、世津が本当に何もしないか分からないからだろう。
 俺は警戒しながら世津の背中を睨む。

「…で、なんだよ」
「社クンって、こんな根暗そうな見た目してたんだねえ」

 生徒手帳の顔写真を見ながら馬鹿にするような声で言う。だからなんだと顔を顰めれば、くすりと笑った。

「まるで隠してたみたい」
「…まあ、隠してたからな」
「うんうん、隠して――え?」

 あっさりと認めたら世津が目を丸くした。あの作られた笑みより好感の持てるそれに少し笑う。

「…か、隠してたんだしそれなりの理由あるよね〜?」
「理由は一応あるけどもうなくなったぞ」
「家のこと隠す為、とか?」

 ……何言ってんだこいつ。さっきから何だか勘違いしてるような気がするんだけど。

「別に家のことで隠したわけじゃねえよ。ただ父親と賭けてただけだ」
「は…」

 ぽかんと口を開けて呆然とする世津。もしかして家のことで隠してたと思い込んで――脅迫でもしようと思っていたんだろうか。ふん、残念だったな。

「う、嘘でしょ?」
「嘘じゃねえ。なんだったらバラしていいぞ」

 どうせそんなに有名じゃねえし隠す必要ねえし。

「…それじゃ名前は…」
「名前もバレないようにするためだ。もう本名言ってもいいが言う必要もないから言ってないだけ」
「…ッチ」

 俺が嘘を言ってないと理解したらしい。舌打ちして生徒手帳を投げ返してきた。その顔にいつもの笑顔は浮かんでいない。