白木というのが誰だか知らないが、どうしてそいつが俺の生徒手帳を持っているんだろうか。眉根を寄せると、世津も不思議そうに首を傾げた。そしてにやりと口が弧を描く。

「…仲悪いのー?」

 もしかして仲が良いのかという問いにに対して俺が顔を顰めたと思ったのか。…つか、そんなに楽しそうな顔で訊くなよ。

「いや、白木って奴は知り合いじゃねえな」
「なーんだ」

 途端に詰まらなそうにする世津に頬が引き攣る。あの会計も大概腹が立つ奴だったが、こいつはそれ以上かもしれねえ。

「まあ白木くんも反応薄かったしなあ…」
「…白木っていやあ、二年じゃねえか」
「二年…」

 益々分かんねえ。――しかし、心当たりがないわけじゃない。クラス落ちして会った人物の中で一人、名前を知らない奴がいる。そいつとは初日以来会っていない。クラスに来ていないんじゃなくて、そもそも学年が違うとなると。
 俺は同室者の方を向いた。

「おい」
「ん?」

 俺の呼びかけに反応したのは世津だった。明らかにお前に話しかけたものじゃねえのに反応するな。

「お前じゃねえ、同室者だ」
「え、俺? っつか同室者って」
「たぐっち同室者って呼ばれてんのー? ウケる」

 何故かがっくりした様子の同室者の肩をばしばし叩きながら笑う世津。

「同室者じゃなくて名前で呼べよ!」
「…田口」
「っお、おう!」

 パッと顔を輝かせる同室者基田口に罪悪感を感じた。世津がたぐっちと呼んでるから思い出したなんて流石にこの顔に向かって言えねえよ。

「その白木って奴、もしかして銀髪か?」
「なんだ、やっぱり知ってるんじゃ〜ん」

 だから何でお前が答えるんだよ! 話に加わってくんじゃねえ!
 …しかし、やっぱりあの銀髪か。あの時に落としたのを拾ったのならまあ納得だが何でこいつに預けたんだよ。

「白木は二年の頭候補だ」
「頭候補? …つーことは、他にもいるのか」
「ああ。二年は白木派と満永派で真っ二つに分かれてる」
「ふーん…」

 あいつって頭候補に上がるほど強かったのか。じゃああの時絡んでた奴はもしかして満永派の奴ってことか? そこまで考えて、まあ二年なら会うこともないだろうと考えるのを止め、俺は世津の持っている生徒手帳を見つめ溜息を吐いた。