(side:誠春)

 結局授業らしいものはこのクラスでは期待できない。俺は仕方なく教科書を開いて眺める。しかし、直ぐに邪魔が入った。

「ねえ、社クンさ〜」

 頼むから勉強させてくれよ。顔を顰めると、何が楽しいのか世津はニヤニヤと不快な笑みを浮かべる。

「これなーんだ」

 そう言って取り出したものは、この学園の生徒手帳だ。それがどうかしたのかと見ていると、開いて俺の目の前に持ってきた。そこに書いてある名前と見覚えのある顔写真に顔を引き攣らせる。何故こいつが持っているんだ。手を伸ばして奪おうとするが、ひょいと避けられてしまった。

「あ? なんだそれ」

 またかよ。教科書の件で先程も聞いたような台詞を吐く同室者の発言に溜息が出そうになる。

「さぁねえ。たぐっちはなんだと思う?」
「…どっかで見た気するんだけどな」
「セートテチョーってやつだろ」

 会話に入り込んできた隣の席の奴――峯岸がドヤ顔でこっちを見ている。一瞬世津が詰まらなそうな顔をした。

「あ、それだ! それはちゃんとあるぜ。部屋に」

 予想はしてたけど持ち歩かないんだな。部屋にあるだけマシか。…つーか。

「返せよ」
「嫌だって言ったら?」

 くいっと口の端が上がる。うっぜえなこいつ。生徒手帳なんて別に盗られて悪用はされないが、世津に持たれたままというのが嫌だ。

「どうして世津が社のセートテチョー持ってんだ」

 訝しげに世津を見る同室者。そう、何でこいつが持ってるかが分かんねえんだよな。もしかして偽物…か? ポケットに手を入れた後鞄の中も見てみたが入れていた筈の生徒手帳は無くなっていた。つまり世津が持っているのは紛れもなく俺の持っていたもの。

「白木くんに預かったんだよ。あ、そーいえば社クンって白木くんと仲良いの?」
「シラキ?」

 ……誰だよそれ。