同室者の唖然とした顔と声に世津はきょとんとする。

「勿論本だよー」

 勿論じゃねえだろそれ。どうしたらそうなるんだよ。

「…何があったんだ、その本に」

 俺の心の声を代弁するように同室者が恐る恐る訊ねる。ポイ、と鞄に教科書という名の紙切れを放り投げて、ふうと溜息を吐いた。

「それがさあ、よく分からないんだよねぇ。気がついたらこうなってて〜」

 枕にして寝たらこうなってたんだ。そう言って世津は笑い声を上げるが、俺と同室者は黙って世津を見た。…こいつの寝相、どうなってんだ? つか寝相とかいう問題じゃねえ。

「…キミ達! 静かにしないか!」

 痺れを切らしたように叫んだ教員に空気が固まる。世津は浮かべていた笑みを無くして舌打ちをした。例え本当の意味で笑っていなくとも、いつも笑っている奴が突然表情を無くすのは少し怖い。

「これだから落ちこぼれは――」
「あぁ!?」

 忌々しそうに呟いた教員に反応した不良が音を立てて立ち上がり机を蹴っ飛ばした。それが前方の机を巻き込んで次々に倒れていく。前に人がいなかったから良かったが、いたら大怪我になっていたんじゃないか。想像して青くなった。教員もぐちゃぐちゃに崩れた机たちを見て真っ青になる。

「テメェさっきなんつった! あぁ!?」

 周りの不良もぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。
 顔を真っ赤にして怒る不良は教員の方へ足を踏み出す。

「…うっせぇな」

 しかし、不機嫌丸出しの峯岸の声に罵声がぴたっと止まる。目を開けた峯岸は人でも殺しそうな顔で前を睨んだ。目の当たりにした教員は情けなく震えている。

「す、すみません! 峯岸さん!」

 周りの不良が一斉に頭を下げる。世津は詰まらなそうに欠伸をしていた。チラリと同室者を見ると、キラキラとした目で峯岸を見ている。……お前、こういう奴に憧れてんのか。

「ッチ、失せろクズが」

 ひいっと悲鳴を上げた教員が慌てて出て行く。躓いて転びそうになるのを世津がげらげらと笑った。