「や〜、社クンじゃないのー」

 胡散臭い笑みを浮かべながら近づいてきた世津は、俺の前の席に座って体をこっちに向けた。ニヤニヤとした笑みが気持ち悪くて目を逸らした時、柳原が溜息を吐いた。

「おい、世津。前向け」
「はいはーい」

 ふ、と笑って前を向く。…こっちを向く必要はあったのか? 探るように背中を睨み、そして峯岸を見る。峯岸は俺が来た時と同じように目を瞑っていた。




 今日も授業はないのかと思ったが、柳原が出て行って十数分後、猫背の教員がやってきた。ちゃんと授業になるのかは兎も角、来てくれて助かった。このままじゃ俺は部屋で独自に勉強するしかくなるからな。生徒会の仕事に追われていた時もろくに勉強していないし。
 入ってきたそいつの存在に気づいているのか気づいていないのか、無視して騒ぎまくる不良共。騒ぎまくると言っても、昨日の午後程ではない。それにはやっぱり峯岸の存在が関係しているのだろう。俺は教員の顔を見て――やる気が萎んだ。いや、期待していたわけではない。不良をよく思っていない教員ばっかりということも知っている。が、それでも舌打ちをしたくなるのは、この教員は俺が職員室に行った時に一番嫌な印象を抱いたからだ。
 教員は俺たちを汚れたものでも見るような目をして、教壇に立った。そして何かをぼそぼそと言う。口が一瞬憎々しげに歪んだのを俺は見逃さなかった。クラス落ちした落ちこぼれで嫌われ者な俺にも蔑みの視線を向けられ、一睨みして教科書を取り出した。確か一限目は英語だったはずだ。

「うわ〜社クンてばそんなの持ってきてんだ。えらーい」
「おい、何だそれ?」

 いつの間にか再びこっちに体を向け椅子の背に両手と顎を乗せた世津が、馬鹿にするような声で笑った。それに反応した同室者も俺の手元に興味を示す。なんだそれって、どう見ても教科書だろ。っていうか、持ってきてねえのかよ。予想してたけど、こいつらホント勉強する気ねえんだな。

「教科書だ」
「あー、そういえばんなもんあったな」

 どこやったっけなあと零す同室者に呆れて言葉がでなかった。もっと物は大切にしろよ。俺が言えたことではないが。

「俺はちゃんと持ってるよぉ」

 そう言ってごそごそと鞄を漁り、取り出したものは――。

「…え、それ、本か?」

 原型を留めてすらいないボロボロの本基紙切れだった。