(side:モブ)

 書記の社がリコール、クラス落ちして数日が経った。リコールの際には当事者である社がいなければいけないのに、彼はいなかった。親衛隊や社を嫌っている奴らは尚社に対し嫌悪感を抱いただろうが、俺は知っている。俺だけではない。社を嫌っていない俺たちは、彼が仕事をしない能なし連中の尻拭いをしすぎたせいで体調を崩し、その隙に前々から計画していたらしいリコールを行ったことを。
 全校生徒から嫌われているみたいな扱いをされている社だが、親衛隊や社を良く思ってない連中のみで、殆どが嫌っていないが関わりたくないという奴らだ。勿論陰湿な虐めを目の当たりにしながら何も行動しなかった他、リコール署名をしてしまったことで、充分俺たちは加害者である。でも家のことを脅されたり、巻き込まれたくないという思いで保身に走ってしまうのは俺たちの生き方なのだ。
 リコールは生徒の半数以上が賛成、風紀委員長、生徒会長、生徒会顧問の決定で行われる。これは風の噂なのだが、風紀委員長は最後の最後まで反対してサインしなかったらしい。しかしリコールが行われたということは、押し切られたか、それとも何者かが勝手に…。後者だとすれば、大問題だと思う。というか、仕事をしていることを知っている奴らがリコールするなんて、どういう思考をしているんだか。あの目出度く書記に後任した転入生も然りだ。あれだけ社に引っ付きまわって自分に好意を向けている親衛隊持ちの奴らに嫉妬させたり仕事をしていないと人の多いところで叫んだり、社のことを親友と言いながら、どんどん追い詰めていった女狐だ。あいつが北叟笑んで社を見たのは一度だけではない。
 ところで。話は全く変わるのだが、社が生徒会専用寮から追い出されたあの日。奇妙な噂が流れた。

「黒髪イケメン、ねえ」

 親衛隊が頬を染めて話しているのを聞いた友人が嘲笑った。俺も思わず馬鹿にするような笑みが漏れる。あの生徒たちは確か、生徒会長と副会長の親衛隊に所属をしていた筈だ。それを見たことがない黒髪イケメンの話で盛り上がるなんて、イケメンだったらなんでもいいのかよ。まあ顔や家柄で媚を売るような奴らに全く興味がないからどうでもいのだが、問題はその黒髪イケメンのことだ。
 俺はチラリと利用者を無くした机を見る。追いやられるように隅に配置されたその机と椅子には落書きで埋まっていたり、ゴミが詰め込まれていたり。その利用者だった社は、前髪と眼鏡が邪魔して顔がまともに見えなかった。そして何の手も加わってないような綺麗な黒髪だ。そして黒髪イケメンが姿を現した日。その黒髪イケメンが目撃されたのは一度だけだ。つまり。――その黒髪イケメンは、社ではないだろうか。その可能性は高い。だからこそ、その黒髪イケメンに興味を抱いてる転入生含め社を嫌っていた
奴らを見ると、笑わずにはいられない。

「お前、悪い顔してる」

 そう言った友人も、充分あくどい顔をして笑っていた。