俺が近づいた時には、もう完食した後らしく、立ち上がって田口と何かを話している。田口の顔は見えないが、戸惑ったような声が上がっていた。

「すぐ食べ終わるから入口で待っとけよ、社!」

 田口が叫んで、あいつが社だと確信した。近くで見ると矢張り生徒会級に整った顔立ちをしていて、思わず見惚れてしまう。同時にどうしてこうまで変わってしまったのかと驚いた。
 社は俺を見て顔を歪めた。好かれていたとは思っていなかったが、そうやってあからさまに嫌そうにされると少し傷つく。
 それにしても、…マジで、どっかで会った気がする。

「お前――社、なのか」

 言うと、社は一瞬田口を睨んで舌打ちをし、俺の横を無言で通り過ぎる。――何も言わねえのかよ。お前は、俺を、俺たちを責められる立場の奴なんだぞ。……っ。そこまで考えて、俺は何を考えているんだと溜息を吐いた。あいつのリコールは厳密に言えば俺の所為じゃない。でも、俺は千聖にべったりな生徒会の奴らが仕事をしていないのは明白だったのに、誰もそれを言わなかった。リコールされるのを黙ってみていた。「あいつは嫌われ者」だから。
 俺は社の背中を見送る。そういえばあいつは、いつも背筋がしっかりと伸びていた。





 回想を終えて社の顔を思い出す。髪で隠れて分からなかったが、顔には不機嫌さがありありと出ていたから、もしかしたら感情表現が豊かなのかもしれない。これでもう社は千聖に近づくことはできない。でも、俺はサボりまくってるけど一応Zクラスだから――。

「って、なんつー都合良いこと考えてんだよ俺は…」

 思わず声が漏れるが、近くに人はいなかったため誰も聞いていなかった。千聖は笑顔で生徒会の奴らと話している。俺は生徒会の奴らの笑顔を見て、何だか無性にイラついた。仕事しろよと怒鳴りたいが、そんな資格なんてねえし。
 社が美形だったから、思っていた性格と違うから。それだけで喋りたいと思うなんて、ゲンキンな奴だと自嘲した。それに自分を嫌ってた奴がいきなり親しげに近づいてきたら警戒するだろう。
 だから。

「どうしたの? 恭佑」
「…なんでもねえよ」

 だから今はこのままで。