体格の良いウェイターが料理を運んで来たので、俺たちは一端話を止めて料理を口にする。俺は唐揚げ定食、同室者は親子丼だ。衣のサクサクとした食感を楽しんでいると、一口食べ終わった同室者が思い出したように口を開いた。

「でも転入生ってなんかすげーいいやつみたいな感じのこと聞いたけど」
「だろうな」
「だろうなって…」

 不満そうな顔の同室者。俺たちは互いに沈黙する。この際だから転入生の悪行をバラしてやろうか。

「あいつ猫被ってやがる。俺が気に入らなかったのか知らねえけど、仕事してねえクソ生徒会共の代わりに全部処理してやった俺を悪者に仕立て上げたんだよ」
「げ、それはなんつーか…災難だったな」

 同情の目を向ける同室者の足を蹴ると、目の前の顔が歪んだ。

「いってぇな、蹴るなよ」

 そう言いながら、別に怒っている風ではなかった。何となくそれにホッとしながらいつもの調子で返す。

「うるせえ」

 近くの不良からの視線が、さっきと違うことに気がつく。何だ、同情でもしたのか? …確かに賭けに負けて限定商品逃したが、俺はあれから解放されてやっとゆっくり休めるんだよ。仕事しなくていいし。だから同情なんて要らねえ。
 チッと舌打ちをして唐揚げを口に放り込む。そして顔を上げた時、食堂に入ってきた奴と目が合った。どこか見覚えのある姿に眉を顰める。

「何だ、どうした?」

 同室者が不思議そうに俺を見て、俺の視線を追うように振り向く。そしてもう一度こっちを向く。
 俺たちは無言で見つめ合う。向こうも眉根を寄せて何かを考え込んでいる。

「諸星と知り合いなのか?」
「諸星――…あぁ、あいつか」

 確認するように名前を一度呟いて俺はげんなりとした。転入生の信者、そういえばZクラスに一人いたな。一匹狼と言われてたやつ。
 思い出したのでもう用はない。つうか、俺が社ってバレたら絶対面倒なことになる。俺は唐揚げに視線を戻す。そんな俺を数秒良く分からないと言いたげな顔で見ていた同室者だったが、小首を傾げた後箸を進めた。俺がクラス落ちしたことは既に広まっているから、バレるのはもう秒読みだろう。俺は兎に角この場所で接触するのを避けようと、飲むように唐揚げを片付けていった。