「さっきは世津が悪かったな」

 席に着いて注文した直後、同室者が謝った。俺はその言葉に眉を寄せる。

「なんでお前が謝るんだよ」
「いや…あれでもあいつ、俺のダチだし…」
「だからって何でお前が謝るわけ。お前が謝る必要ねえだろ。それにきにしてねえ」

 あんな奴どうでもいい。関わりたくない。もう近づいてこなければそれでいいんだ、俺は。
 舌打ちをして料理はまだかと早速イラついていると、何か言いたげな顔で同室者が俺をチラチラと見る。何か言いたいならハッキリ言えよ。ただでさえ周りからの誹謗中傷と視線がうざいのに、これ以上イラつかせるな。

「何だよ」
「いや、お前って…」
「あ?」
「前から、そういう性格…だったのか」
「は?」

 何故そんなことを訊くんだろう。そういう性格って、…どういう性格だ?

「……まあ、そういう性格っていうのは良く分かんねえけど、ここに来るまではそういう性格だったな」
「ここに来るまで?」

 別に隠す理由もない。教える必要もねえが、まあ、少し感謝してるし教えてやるか。俺はくいっと口の端を上げると、何故か同室者の顔が微妙に青ざめた。

「賭けをしてたんだよ」
「賭け?」
「そうだ。正体隠したまま三年間生徒会に所属してたら俺の勝ち、できなかったら俺の負け。もう負けたから隠す必要がないから今こうしてるってわけだ」
「…正体?」

 同室者が不思議そうな顔をする。そういえば、まだ俺が八代の者って誰も気づいてないな。まあ後継者は俺じゃなくて兄貴だし、パーティーは出ると言ってもたくさんじゃない。そして八代じゃなくて社のままだから、まあ…気づかなくても仕方ないか。

「あ、正体については教えねえから」
「え!? なんでだよ!」
「面倒だし」
「えー…」

 がっくりと肩を落とす同室者の姿に笑みが漏れた。うざく付き纏ってくるけど、別に嫌いじゃない。好きでもないけど。

「それにしても、何でクラス落ちしたんだよ? 相当なことだぞ」
「だから嫌われ者だったんだっつの」
「じゃあ何で嫌われてたんだよ」
「正体隠すために見た目も性格も根暗っぽくした所為だ。あと家柄の所為。そんな奴が生徒会に所属してるっつーのが気に入らなかったんだよあいつらは」

 ふん、と鼻で笑うと納得のいったように頷く同室者。俺は続けてあの転入生を思い出し、舌打ちをした。

「でも何で今なんだ?」
「あのクソ転入生が来た所為だよ」
「あー…そういえばそんな噂も回ってきたな」

 あの転入生のことは、殆ど関わりのないここにも伝わっているらしい。ここには信者がいませんようにと溜息を吐いた。