(side:誠春)

「と、とにかく! お前が嫌がったとしても俺はお前に関わるから!」

 そう言って得意げに笑ったそいつの認識が、どうでもいい同室者から変な者の同室者に変わった。あんだけぶっきらぼうに接したのに関わろうとするなんて、物好きなやつだ。探るような目で見るが、一人で納得したように頷いている。訳がわからない。居心地が悪くなって持ってきた鞄から本を取り出して開く。

「何読むんだ?」

 何故話しかけてくるんだよ。本を読んでる時に邪魔されると…イライラゲージが溜まる。特にそこがすごく良いシーンだったり緊張感溢れるシーンだったりすると、一気に萎えてしまう。俺は聞かなかったフリをしてページを捲った。

「おい、社」

 無視されたと気づいてないのか、粘り強いのか、またもや声をかけてきた。俺は何も聞こえない何も聞こえない…。なあなあと何度も呼びかけてくる同室者の所為で、内容が頭に入ってこない。
 流石に諦めたのか、声はかけてこなくなった。しかし、今度はじいっと顔を見てくる。穴が空いてしまうかと思う程強い視線に、頬が引き攣りそうになった。
 そして反対側からも強い視線を感じる。いや、言ってしまえば教室全体からジロジロ見られている。これで集中して読むことの出来る奴は、相当神経が図太いだろう。そんな神経は持ち合わせていない。俺は溜息を吐いて本を閉じた。まだ序章も読み終わっていないが、このまま読み続けても全く進まないだろう。

「あ? もう読まねえの?」

 横を見ると、不思議そうな顔で同室者が首を傾げている。自分が邪魔をしていたという自覚がないのか、こいつは。ギロリと睨むと、焦った様子で謝ると、首を傾げた。良く分からないが兎に角何かをやってしまったみたいだ。謝っとこう、と顔に書いてある。つか、悪いと思ってないのに謝るんじゃねえよ。本日何度目かの溜息を吐くと、隣で峯岸が喉を震わせた。
 ……峯岸も、良く分からない。取り敢えず危険なやつだとは分かっている。何故かは分からないが同室者は「嫌がっても関わる」らしいから、皆が皆敵じゃないってことだ。そう考えると、何か…ちょっと有難いかもしれないな。礼なんかゼッテェ言わないけど。
 そこではたと気がつく。先程までどうしても震えてしまっていた手に込めていた力が抜けている。気持ち的にも楽になったような…。
 俺は同室者を一瞥し、落書きで埋め尽くされている黒板をぼんやりと眺めた。