峯岸さんが何を考えているか全く分からねえ。それはきっと他の奴らも同じだろう。ウズウズしながら体を揺らしている。峯岸さんが一言、やれと言えば喜んで飛びかかるに違いない。本当にあいつ一人孤立してんだ…。社を自分に置き換えて想像してみて、ぞっとした。よく平然としてられるよなぁ…。俺は何となく自分の席には行かず、空席である社の隣に腰を下ろす。何故来たと言わんばかりの表情で睨まれたが、そこであることに気づき目を見開く。

「お前…」
「…んだよ」

 遠目には分からなかったが、社の手は小刻みに震えていた。脳内で実は喧嘩が強い説が崩れていく。この眉間に寄った皺と力強く握り締められた拳は弱みを見せないようにしているんだろうか。昨日感じた社と関わりたくないとか、絶対泣かすとか、どうでも良くなった。……少し峯岸さんが何もせず横にいる気持ちが分かった気がする。この人…面白がってんだな。俺はチラリと一見不機嫌そうに見える社に同情の目を向けた。

「そういえば峯岸さん、センコーはどうしました?」

 この時間はまだ授業中だろう。俺は壁に掛かった時計を見た後峯岸さんに訊ねた。恐らく追い出したんだろうけど。
 峯岸さんは面倒そうに顔を顰めて舌打ちをする。そして嘲笑を浮かべた。

「俺がいると分かった途端逃げやがったよ」

 逃げたい気持ちも分かるが、あんなクズ共に同情することなんてこれから先一生ないだろう。俺たちの担任のヤナ先はまだ話の分かる奴だけど。
 一瞬クズ共の顔を浮かべて気分が悪くなった時、横から深くて長い溜息が聞こえた。社の方を向くと、峯岸さんも片眉を上げて社を見た。

「どうした?」
「……あ?」

 声を掛けると、目を丸くした。え、何だその反応? 社の反応に今度は俺が目を丸くすると、社は呆れたと言うような顔でもう一度溜息を吐いた。

「…何で話しかけてくんだよ?」
「何でって…声かけちゃいけねえのかよ」
「関わるなって言ってんだろ」

 ムッとして社を睨むと、負けじと睨み返してきた。昨日なら不機嫌丸出しの顔にビビってたかもしんねえけど、もうビビらねえ。あの震える拳を見てしまったから。
 視線を感じ、ハッとして峯岸さんを見れば、非常に面白そうに顔を歪めて俺たちを見ていた。何故か急激に恥ずかしくなり、顔に熱が集まる。

「と、とにかく! お前が嫌がったとしても俺はお前に関わるから!」

 びしっと顔に人差し指を突きつけると、呆然とする社。何だか気分が良くなり、俺はニッと笑った。