(side:隼斗)

 意識が浮上し、俺はゆるゆると目を開けた。ぼんやりする頭で天井を見つめる。欠伸を噛み締めながら寝返りを打ってもう一眠りしようと目を閉じる。そしてカッと目を見開いた。

「今何時だ!?」

 ベッドから滑るように降りて部屋の隅にブッ飛んだと思われる変形した時計を拾う。十一時半。いつもならまだこんな時間かとベッドでぬくぬくとしている時間だが、今日は、――これからはそうもいかない。俺は慌てて自室を飛び出し、直ぐに社の個室を叩いた。

「おい、いるか!?」

 昨日ビビっていたことも忘れ、どんどんとドアを叩くが、反応はない。まさかと思い開ける。社の姿はなかった。……ということは、だ。さあっと顔が青くなる。もう学校へと行ってしまったんだろう。クソ、一言だけでも忠告しておくんだった。髪もセットしないまま急いで着替え、部屋を飛び出す。いや別にあいつが心配なわけじゃねえよ!? ただ…予想と違って好感の持てる新しい同室者にちょっとばかし! ほんのちょっとだけ情が湧いただけだ。




 教室に着くと、息を整えることもせずバンッと勢い良くドアを開けた。予想だにしていなかった光景に俺はあんぐりと口を開ける。

「え、……ええ!?」
「あん? 田口じゃねえか」

 目の痛いピンクの机に足を乗せて座っている我らがボス、峯岸さん。そしてその横には…同室者の社。その他に生徒が何人かいたが、チラチラと峯岸さんたちを窺っているだけで、何もしていない。…俺はもっとこう…リンチとまではいかなくとも、怪我の一つ二つしているとばかり…。見えないところに怪我でもあるのかと思ったけど平然としてるし…。え、意味分かんねえんだけど!?

「よう田口? 何か俺に言うことはねえか?」

 入口で固まっていた俺にかけられた言葉にびくりと肩が跳ねる。峯岸さんはチラリと隣の社を見て、次いで俺に視線を向ける。

「す、みません…何も、手を出しませんでした」

 殴られる覚悟で俺は言った。真っ直ぐ峯岸さんを見て。珍しいものでも見たような顔をした峯岸さんはニヒルな笑みを浮かべた。

「ま、いいけど」

 え、いいのか!?
 峯岸さんの予想外の発言に瞠目する。社は嫌悪に満ち溢れた目で峯岸さんを見る。…怖いもの知らずっつーか、すげえなあいつ…。
 つーか、峯岸さん何となく機嫌が良いように見えんだけど…? 普通なら不機嫌になってるだろうに。何故社に手を出してないことで不機嫌になるかというと、峯岸さんはボロボロになった奴を更にボコるのが趣味な人だからだ。それまで自分は手を出さないで、下っ端に殴らせてそれを眺めるのが楽しいらしい。