もしかして俺をボコれと命令されていたのだろうか。同室者の顔を浮かべ、顎に手を当てた。全然そんな素振りなかったと思うけど、あいつ大丈夫なのか? まあどうでもいいけど。

「…つーか」

 ふあ、と欠伸をして俺をじっと見つめる。油断していたら食われそうな視線に、じわりと手に汗が滲む。

「俺ァもっとキモオタって聞いてたんだけどな」
「…誰から?」
「ギャンギャン煩ェ女モドキ」

 ぐっと眉根を寄せて嫌悪感に満ちた顔つきになる峯岸。そういう奴が鬱陶しいのだろう。確かにあいつらはウザイ。うんうんと頷く。あの男にしては甲高い声で叫ばれると、頭痛がする。しかもあいつら、男の癖に化粧とか肌の手入れとか、もういっそのこと性転換手術すればいいんじゃねえの。

「…で、お前は一体何しに来たんだ」

 柳原が教師とは思えない発言を峯岸に投げかける。ニッと笑うと、何も答えずに足を進めた。俺と柳原は一度顔を見合わせ、謎の行動に眉を顰める。真っピンクの席に到達した時、ハッとする柳原。え、何だよ一体。……嫌な予感がすんだけど。
 峯岸は真っピンクの机に腰掛けた。

「ここ、俺の席な?」

 ……おい柳原、そこは安全じゃなかったのかよ。なんで一番危険な人物の隣なんだよ! ジト目で柳原を睨むと、申し訳なさそうな顔になる。

「ああ、さっき柳原が言ったまだ安全っつーのは、ここが俺の席だからだぜ」
「は?」

 峯岸のくくっという笑い声にそっちを向けば、面白そうに口を歪めている。意味が分からず目を瞬いた。

「あいつら俺を怒らせるようなことやらねえからさ、例えば――お前が机投げられたとすんじゃん?」

 例えが恐ろしいぞオイ。え、なに? 一つ間違えば死んでしまうような出来事は日常茶飯事なのか、このクラスでは?

「それをお前が避けるか、もしくは手が狂って俺の方に飛んでくる可能性もあんだろ? 前と後ろからは知らねえけど」

 …つまり、前後はともかく、四方からの攻撃は免れるってことか。だから『まだ安全な方』ね。

「…それって」
「あ?」
「お前がいない時は…どうなんだよ」

 峯岸がその場にいたらの話だ。席を少し外す時もあるだろうし、そもそも来ない時だってあるだろう。俺はぎゅっと拳を握って峯岸を見上げる。峯岸はニヤァと嫌らしい笑みを浮かべた。

「知るか、バァカ」

 ベェ。真っ赤な舌を出して笑う峯岸に殺意が湧いた。