「待てやゴラァアアアア!」

 後ろで雑魚共が追いかけてきている。当事者でなければあいつら馬鹿かよと笑っているところだろう。…当事者じゃなければな! 誰かがあいつ誰だと叫ぶ。明らかに俺のことを言っているだろう。これで目を付けられたらマジ許すまじこいつ。
 あいつらを撒いた後どうしてくれようかと悩みながら銀髪の後頭部を睨む。きっと俺の恨みを込めた視線に気づいているだろうが、銀髪は何も言わずただ走るだけ。…ちょ、あの、俺そんなに体力ねーんだけど。こんなに走ったの、久しぶりだぞ。嫌われ者で絡まれていた頃もあいつのお陰で上手く回避してたから、走って逃げるなんてことあんましなかったし。はあはあと息の乱れた俺。しかし銀髪は全く息が乱れていない。くっそ、腹立つ。睨む力を込めた瞬間、銀髪が角を曲がる。ぐいっと引き寄せられて俺が転けそうになったのは言うまでもない。




 ハアハアハア…。ハアハア…。
 いや別にこれ変質者とかじゃねーからな。

「体力なさ過ぎだろ」

 ハッと鼻で笑う銀髪を睨む。涼しい顔しやがって畜生。息が漸く整って、膝に手を置いていた状態から普通の姿勢に戻る。ポキッと嫌な音がしたが、決して運動不足ではないはずだ…うん。銀髪はそれきり黙ってしまった。俺は銀髪の顔をジロジロと観察する。ふーん…さっきも思ったけど、やっぱ良い顔してんじゃねーか。
 銀髪はそんな俺にぐっと眉を顰める。喧嘩も強いだろうし、加えてこの容姿。ワルい男って素敵☆な奴らにモテんだろうな、こいつ。まあ、割とクールっぽいし? そういうの好きな奴にゃ堪らんだろうよ。…言っておくが僻んでるわけじゃねえ。俺だって良い顔してっし。

「で、何で俺を巻き込んだ?」

 くいっと片眉を上げて問うと、一瞬面倒そうに顔を歪めて、無表情になる。

「別に。特に意味ねーよ」
「アァ!? 俺はあのまま学校行きたかったんだよ! 意味ねえじゃ納得できるか!」
「何…?」

 ピクリと銀髪の眉が動く。俺はチッと舌打ちして、がしがしと髪を掻いた。やっべ、何か面倒な臭いがプンプンするぞこれ。

「お前、Zクラスなのか」
「そうだ」
「……見えねえな」

 Zクラスの奴らの中では黒髪黒目で制服をちゃんと着ている奴はいないのかもしんねえな。銀髪は訝しげに俺を見る。視線がウザったくなり、俺はもうあいつらもいないだろうと再び学校への道を歩き始める。もう連れてきたことは水に流してやるから関わるんじゃねえぞと思いながら。
 後ろからの突き刺さるような視線には気づかないフリをした。