準備を済ませ、早めに部屋を出る。結局同室者は起きてこなかった。靴はあったから俺より早く起きている可能性も潰された。――そういえば。部屋は思ったより綺麗だったな。外観が悪すぎた所為か、変に感心してしまう。同室者が掃除のできる奴で良かった。新しい部屋がゴミ屋敷だったらブチ切れていただろう。
 スプレーで派手に装飾された壁を横目でチラリと見遣って、誰もいない寮の廊下を歩く。寮長もいない玄関を通り過ぎ、寮の外へと出ると、ひんやりした風が俺を迎えた。その風は夏の終わりを示していて、何だか少し寂しくなった。あの転入生が来てから数ヶ月。もうそんなに経ったのか――。沸々とあのクソ役員共に対する怒りが再び湧き上がり、顔を歪める。一発だけでも殴っとけば良かったな。あのご自慢の面を。俺の後任に誰を充てるのか知らねえけど、…まあ、あの役員共のことだ、転入生をその座に置きたがるだろうよ。まあ誰が書記になったとしても、果たしてあいつらはちゃんと仕事すんのかねえ。今まで誰が仕事を処理してきたのか、思い知ればいいと俺はにやりと笑う。

「……っ! …」
「……! ……!?」
「…ん?」

 僅かに聞こえた声に俺は立ち止まった。何かを言い争っているようにも聞こえるそれに、激しく溜息を吐きたくなる。…何故なら、その声が聞こえるのは、前からだ。つまり、目的地に向かうにはそこを通らなければならないわけで。

「…めんっどくせぇ…」

 チッと舌打ちをする。寝癖を直した髪を苛立ちを込めて掻き上げて溜息を吐く。諦めて通るしかねえか…。他に道があればなと思っても仕方ない。
 近づくと大きく鮮明になる声。矢張り、言い争っている。そして遂に声だけではなく、人影が見えて来た。五人が一人を囲んで、その内の一人が囲まれている奴の胸倉を掴んでいる。しかしそいつは不利な状況でも、無表情だった。そいつ――銀髪で親衛隊のいそうな顔立ちの奴に感心して声が漏れた。
 ……っつーか、道の真ん中でやるなよ。どっか隅でやれよそういうこと。いや、それ以前にこんな朝早くから何やってんだ? 確かに生徒が登校する時間だけど、もしかして朝からちゃんと登校するつもりで寮を出たのだろうか?

「おい、聞いてんのかよテメェ!」

 胸倉を掴んでいる金髪が銀髪を睨む。流石不良なだけあって、結構な威圧感がある。しかし銀髪は怯むどころか呑気に欠伸をしている。