(side:誠春)

 生徒会用の部屋に比べて、かなり狭く感じる部屋。ベッドとクローゼット、机、そしてダンボール数個のみの部屋は冷たく感じ、ぶるりと身震いする。業者が運んでくれた、俺の私物が入ったダンボールは床に置いてあった。それを見ながら先程会った同室者を思い出し、溜息を吐きたくなる。俺はああいう奴が沢山いる所で生活していかねばならないということを今更実感した。ここはZクラス専用の寮で、クラスは一般生徒とは校舎が違う。遠くから見たことがあるが、落書きや傷だらけで見るに耐えなかった。
 特別怖いわけじゃない。でも、怖くないわけでもない。俺は拳で殴り合う経験なんて一度もないから、殴られてどれくらい痛いのか、殴る感触がどんな感じなのかとか、全く分からない。普通の奴に殴られるならともかく、不良に殴られるのは下手すると病院行きだ。でも、俺は…だからと言って、ヘコヘコするつもりはない。殴られる時は殴られるだけだ。俺は、俺のままでいる。プライドが高くて負けず嫌いな、俺のままで。

「田口隼斗」

 同室者の名前を口にする。そういえばあいつ、どっか出かけるところだったのだろうか? 俺が来たとき玄関にいたけど。…ま、どうでもいいか。俺はあいつとも、Zクラスの奴とも関わる気ねーし。

「…とりあえず、片付けるか」

 考えるのが面倒になった俺はその場に座り、ダンボールのガムテープをベリベリと剥がし始めた。




 スマホから音楽が流れ始める。目を薄らと開けて設定してた目覚ましを止める。起き上がり、欠伸をしながら背伸びをする。カーテンを通って差す日差しを見ながら、がしがしと頭を掻いた。きっと寝癖で髪が酷いことになっているだろう。親には鳥の巣みたいだと散々笑われてしまった。人のことを言えない頭を見て、笑ったのを思い出し顔を弛める。少しだけ、帰るのが楽しみだ。少しだけな。
 リビングに行くと、しんとしていた。まだ起きていないのか。まあ…偏見だけど、不良だし昼くらいに起きるのかもな。規則正しく生活してる不良は、不良とは言えない気がする。
 クラス落ちしてから初めての登校…だが、不思議と不安や恐怖はなかった。何故だろうか。同室者が思ったより喧嘩っ早くなかったからか? 皆が皆同室者みたいなやつだとは限らないのに。自分の単純さを鼻で笑う。