(side:???)

 俺は時計の針を見て憂鬱な気分でいた。人数の関係で一人部屋だった俺の部屋に同室者ができるからだ。折角好き勝手に使ってたっつのに。同室者ができるってだけで最悪なのに、その同室者が嫌われ者で有名な「社定春」っつーから、更に気分が沈んだ。サボりまくってる俺は実際に会ったことも見たこともないが、そんだけ嫌われてるってことは、嫌われる要素を持ってるんだから俺と気が合うとは思えない。それ以前に見るからに不良な俺に近づくわけねえか。クラスでも虐められんのかな。
 だらーっとソファに寝転びながら何度目かの溜息を吐く。そうこうしているうちに、刻々と時間は過ぎてきている。会いたくねえな、と考えたところで浮かんだこと。会いたくないなら会わなきゃいい。俺は勢いを付けて起き上がり、早足で玄関に向かう。
 ピンポーン。

「嘘だろオイ…」

 何て運の悪い男なんだ俺。まさかこのタイミングで鳴ると思っていなかった俺は玄関で固まった。もう一度軽快な音が鳴り、しんとする。どうしようと思っているうちに、ピーっという音がした。
 げっ! これ鉢合わせるパターンだ!
 方向転換しようとするも時既に遅し。諦めて扉が開くのを俺は固唾を呑んで見守った。

「――あァ? んだよ、いるじゃねえか」

 男前と称される顔立ちの奴は、くい、と片眉を上げる。
 ……。こいつが、社定春? もっと根暗な奴を想像してたんだが…。つか、もっともさもさした髪で無口っていう噂だったじゃねーか。

「邪魔なんだが」
「え――、あ、わ、ワリィ」

 俺は呆然としたまま取り敢えず道を開ける。チラリと俺を一瞥して靴を脱いだ奴は、そのままスタスタと歩いて行く。…というか、俺を見て何も思わねえのかこいつは…。自意識過剰かもしんねえけど、俺美形って言われてるし、喧嘩もまあまあ強いほうだし…。いや、こいつも美形だけどよ。ホントに嫌われてんのか、こいつ? もしかしてすっげえ性格悪いとか? でも顔と家柄重視だしなこの学園。あーわけわかんね。元々俺あんま頭良くねーし。取り敢えずアレだ、一度脅してみっか。それで気に入らなきゃボコボコにして追い出せばいい話だ。
 っし、と意気込んだ俺は、奴の後を追ってリビングに向かう。我が物顔で先程まで俺が寝転がっていたソファに腰掛けていた。え、ええー…。テンションが急降下した。

「お前、えーと…名前なんだっけ?」

 話しかけられた!

「お、俺は田口隼斗だ」

 人に訊くだけ訊いて、どうでも良さそうに欠伸をする社。ぴくぴくと頬が引き攣ったのは仕方ねーと思う。