『よう、リコールされたらしいな』

 電話に出ると父親は一言こう言った。情報伝わるの早すぎだろ。もしかしたら俺がリコールされたって聞いたのより早く知ったのかもしれない。この学校には父親の部下を親に持った生徒がいる。その生徒は結構俺に協力してくれていたんだが、結局リコールされちまったんだから落胆しているかもな。
 リコールって普通は全校生徒集めて伝えるから、あいつが知っていてもおかしくない。当事者の俺は呼ばれなかったが。休んでるうちにリコールしちゃえ☆と思ってやったんだな間違いなく。全く忌々しい。
 きっと父親はにやにやとした顔をしているんだろう。その顔が脳裏に浮かび、溜息を吐いた。

『じゃあ賭けは父さんの勝ちな〜。いやあ、何をしてもらおう』
「…あんまり高いものにしてくれんなよ、親父」
『分かってるさ。じゃあ今度の休日、帰って来れるか? その時までに何をしてもらうか考えとくからさ』
「はいはい」

 くすりと笑みが漏れる。きっと俺にとっては大したことじゃないんだろう。いつだってそうだ。父さんはこれで嬉しいんだ、と言って罰ゲームが肩叩きだったりする。俺としてはもうちょっと無理なものでもいいんだけどな。本人が喜んでるんだから何も言えない。
 人通りが多いところまでくると、俺を見てざわざわと騒ぎ出す。思わず舌打ちをしそうになって抑える。ここで舌打ちをしたら父親が煩くなりそうだ。いらいらが爆発しないうちに電話を切ることにしよう。

「じゃあ、切るから」
『おーう。何かあってもなくても電話くれよ?』

 分かったと言ってスマホを閉じる。周囲の痛いほどの視線がウザったくて睨むと、皆青ざめて顔を逸らした。中には顔を赤くしているやつもいるが。きっとこいつらは分かってないんだろうな。俺が今まで嫌っていた社定春――本名は八代誠春である――だということを。俺は大きな舌打ちを残し、その場を早足で通り過ぎた。




 寮長に自分の部屋を訊くと、目をおれでもかと開いて俺を見た。その顔は面白かった。鼻で笑ってしまったが、硬直したまま動かない。

「早く教えていただけませんか」
「あ、ああ…。えっと、本当に社……だよな?」
「ええ、そうですが」

 口角を上げる。気まずそうに視線を泳がすと、番号を口にする。それを聞いてどうも、と刺のある声で言ってやると、終いには俯いてしまった。うっぜ。もう関わりたくないなと思いながら、俺は一瞥もせず歩き出した。