「あ、あの!? 魔王様!?」

 俺の裏返った声を聞いて、魔王様がふ、と笑う。綺麗な手が俺の手に重なり、するりと指が絡まった。こ、これは俗に言う恋人繋ぎというものでは…? いや男同士だし深い意味はないのかもしれない。

「さて、入るぞ」
「あっ…はい」

 手を引かれて家の中に入る。勇者はリビングのソファで偉そうに座り、俺たちを睨みつけている。俺も睨み返すが、鼻で笑われ視線が俺と魔王様の手に移る。心底嫌そうな顔をされた。
 俺は室内を見回す。中はそこまで廃墟っぽくなく、普通にアジトのような雰囲気だった。そこかしこにあるドクロマークや悪魔の絵がセンス溢れて目を輝かす。思わず手に力が入ってしまったようで、魔王様の手がピクリと反応する。痛かっただろうかと窺い見ると、嬉しそうに笑っていてどきりとした。

「どうだ、気に入ったか?」
「はい! 凄く!」

 にこにこと笑い合う横で、深い溜息が耳に入ってくる。誰がって、言うまでもなく、勇者だ。

「俺にはどこがいいのか分かんねえよ…」

 もう一度溜息を吐くと、直ぐに舌打ちをしてこっちを睨む。目線は合わないので、魔王様を睨んでいるらしい。

「いつまで繋いでんだ」
「嫌がってねえからいいだろ。……なあ?」

 魔王様が首をちょっと傾げて笑う。悪戯っ子のような笑みに見惚れて暫し固まる。我に返って何度も頷くと、満足げな表情をする。

「俺は?」
「え?」
「俺が繋いでも嫌じゃねえよな?」

 俺は直ぐに否定しようとした。しかし、勇者の顔が切ないっていうか…捨てられそうな犬みたいっていうか…。とにかく、言葉が詰まって勇者を見つめる。

「い、嫌…」
「嫌?」
「……なような、そうじゃないような…」

 もごもごと言うと、勇者の目が丸くなる。まじまじと見られ、居心地の悪さに顔を赤くして俯いた。繋いでいる魔王様の手に、力が込められた。

「じゃ、遠慮なく」
「へ?」

 顔を上げると、勇者が近づいてきて魔王様とは反対の手を取ると、同じように恋人繋ぎをする。

「お前、この顔に弱いよな」

 口角を上げて笑う勇者を呆然と見上げる。……え、俺騙された?