何故俺が胸を傷めなければならないんだ。俺は先ほどの痛みを気にしないことにした。
 ずっと黙っている翔太を見遣れば、何だか思い詰めた表情をしている。俺はどくどくと心臓を鳴らしながら翔太に手を伸ばす。肩に向かっていた俺の手は、パシリと跳ね除けられた。拒絶された――。ヒビが入りそうなくらい脆くなっていた翔太への想いの塊がぴしりと音を立てた。
 翔太は俺の表情を見てか、それとも我に返ったのかハッとしてぐしゃりと顔を歪めた。

「ご、ごめ――」

 泣きそうな顔に、俺が慌てる。すると、傍観していたクソ会長が目元を緩めて翔太の頭を撫でた。愛おしむようなそれ。嬉しそうな顔をする翔太。俺の胸は一層ズキズキと鳴る。一体どっちに嫉妬しているのか――そんなこと、考えたくもなかった。
 クソ会長が俺を見て、にやりと口角を上げる。俺に向ける顔と翔太に向ける顔は、あからさまに違う。当たり前だ、俺は嫌われてるんだから。嫌われてなくとも、俺に対する認識は恋敵か好きな奴の犬、そんなところだろう。いや、違う。俺は、一体何を考えているんだ。俺が好きなのは翔太であって、こんな性格の悪い奴なんか大嫌いだ。二人が仲良く話している。俺は何だか取り残された気分だった。さっきの翔太もこんな気持ちだったのだろうか。呼吸が、苦しくなる。

「淳也?」
「……あ…?」

 翔太が心配そうな顔で俺を見た。クソ会長は怪訝な顔をしている。

「いや…」

 言いにくそうな翔太の横で、クソ会長が鼻を鳴らす。

「何だか泣きそうな顔してんぜ、お前」
「――っ!」

 ギリ、と歯を噛み締める。俺はこの場にいたくなくなって、慌てて踵を返して走った。

「淳也!」

 後ろから翔太の呼びかける声が聞こえたが、俺は無視した。おかしい、おかしいこんなの。俺は、翔太を好きになって、他の奴が翔太に構った時でさえこんな痛みはなかったというのに。あのクソ会長が翔太に笑いかけるだけで胸が痛むなんて――そんなの、おかしい。


『…久賀くん、あんな態度だったけど、心配してたんだよ? 倒れてからずっとここにいたしね』

 保険医の言葉が、何故か頭に響いた。