俺は内心ヒヤヒヤしながら相楽を観察する。何故こいつはこのことに拘るのか、さっぱりだ。俺が知っている相楽は、およそ風紀委員長には相応しくない風貌の負けず嫌いっていう面だけだ。そんなに真面目に風紀を正しているところなんぞ、見たことがない。

「では一体何ですか? …非常に不愉快なので、その顔やめて貰えます?」

 いかにも心底面倒です、という表情で溜息を吐く。それを相楽は探るような目でじっと見つめた。
 理事長の息子である十夜を疑うことは予想していた。しかし十夜がKだと疑っているのかは分からない。十夜のことだ。ボロは出さないだろう。俺は相楽のことを十夜に任せて書類に目を通す。

「俺だってお前の顔が見たいわけじゃねえよ。……ま、お前が口を割らないことは分かってる」

 そう言うと、相楽の視線がこっちに向くのを感じた。俺は鋭い視線に少し緊張しながらいつも通りを装う。

「場所が分かれば楽なんだがな。…ッチ、まあいい。俺は必ずあいつを捕まえる」

 じゃあな、と言う声が頭上から聞こえて、足音が遠ざかる。ドアが閉まる音を確認して、俺は漸く顔を上げた。
 ……どういうことだ? スパイが潜り込んでいるなら、場所が分からないはずがない。……クソ、あの規則は穴がありすぎたか。今気づいたが、誰がバラしたのか分からなければ、罰の与えようがない。まあ、とりあえず、相楽が部室に来ることはないんだな。それならばまだ対策はある。

「はぁ…空気が悪くなりましたね。換気しますか」

 割と本音が出てそうな十夜の台詞に頷く。十夜とは今夜にでも作戦会議しなきゃなんねーな。十夜が俺に手伝えと視線を寄越してくるが、無視した。文句を言いながらも一人で窓の方へと行く。

「あの…、風紀の言ってた狐面って、この前の人ですよね? 甘党部、とかいうのを作った」
「あー…まあ、な」
「……甘党の人が入るんですよね?」
「まあ、そうだろうな」

 な、何だ? なんでそんなことを訊いてくるんだ? 何か勘ぐられたかと焦ったが、視線は俺から外れ稲森に向かう。

「…何だよ」

 いきなり視線が向いたことに驚いたのか、詰まらなそうにペン回しをやっていた稲森が目を丸くして直ぐに眉を寄せる。――って、お前仕事してないんかい!

「稲森って甘いもん好きなんだろ? 甘党部入ってんの?」
「は、はあ!?」

 カシャンと音を立ててデスクに転がるペン。その反応に、まさか、と嫌な汗が流れた。