俺は立場上、視線を感じることには慣れている。――しかし、それにしたってこれは見過ぎだろうと思う。

「……稲森」
「…何?」
「何、はこっちの台詞だろーが! さっきからジロジロジロジロうっせえんだよ!」

 十夜が書類に落としていた視線を上げてジロリとこっちを睨んだ。お前も充分煩いと思っているに違いない。確かに声を荒げすぎたかもしれない。咄嗟に謝りかけて、慌てて黙る。その様子が不自然だったのか、十夜の目が更に釣り上がった。

「…ッチ、何か言いたいことあるならいいやがれ」
「別になんもねーし」

 ぷい、と視線を外して頬杖を付く。その横で七城が凄い目で稲森を睨んでいるのだが、まったく気にしたような素振りではない。
 コーヒーを口に含みながら稲森について考えていると、生徒会室のドアがノックされた。入れ、と言ってもう一口コーヒーを飲む。
 顧問の先生でも来たのかと思ったが、入ってきた人物を見てげ、と顔を歪める。そいつと目が合うと、不敵な笑みを浮かべて生徒会室に足を踏み入れた。

「よう、相沢駿」
「なんの用だ」
「素っ気ねえやつだな、相変わらず」

 チッと舌打ちをしたかと思うと、何故か稲森の方をチラリと見る。稲森もじっと無言で相楽を見た。何だか言い知れない違和感を覚えて、眉を顰めた。
 相楽は一枚の紙を取り出すと、俺のデスクに置いた。俺はその紙を覗き込んで息を飲む。

「んだよ、これ」
「狐面についてここに記してある」

 視界の端で十夜の肩がピクリと震えた。バカ、反応すんじゃねえと思いながらも、俺もドキドキと煩い心臓が聞こえていないか酷く心配だった。そこの紙には狐面――つまりは仮面をした俺の写真、だいたいの身長、立ち振る舞い、――好きな食べ物まで書かれている。嫌な予感に舌打ちしそうになる。あいつらの誰かが、風紀のスパイということを想定していなかったのは失態だ。

「…だからなんだよ」
「お前は興味ねえのか? こいつのことが」
「どうだっていい。……用がねえなら、さっさと」
「あんだけ堂々と問題を起こしておいて、教師はおろか理事長まで何も言わねえのは何でだろうなあ?」

 そう言って十夜に目を向ける。十夜は、はあ、と溜息を吐いて氷の王子様(笑)お得意の冷たい視線で相楽を見る。

「まさか、自分がそんなくだらないものに関わっているとでも言いたいんですか?」
「いや、別に?」

 相楽の笑みに不愉快そうな視線を遣って、十夜はすっと視線を外した。