淳ちゃんに急かされてベッドに潜り込んだ後、転入生が入ってきた。淳ちゃんは空音くんが転入生だと呟くまで俺の方をハラハラと見ていて、誰が入ってきたのかまでは分からなかったみたいだ。目を真ん丸にして、俺から視線を外す。それを残念に思いながらこっそり転入生を観察する。……本当に普通な子だ。よしちゃんから転入生のこと聞いたけどどうやらこの子、色んな奴から好意を寄せられているそうじゃないか。どうやってどこにでもいそうな顔で誑かしたんだか…。別に生徒会の奴とかどうでもいいけど、淳ちゃんもとなれば話は別だよ。普通だったらこういう子は興味ないんだけど、淳ちゃんが関わったことで嫌いな部類に入っちゃった。
 ……色んな奴に好かれてるなら、他の奴でもいいじゃん。俺には淳ちゃんしか、いないのに。起き上がりたい衝動を抑えながらぎゅっとシーツを握り締める。空音くんが羨ましい。堂々と淳ちゃんの横に立っていられるから。俺だって周りに牽制したい。転入生に言ってやりたい。淳ちゃんは、誰にも渡さないって。何で俺は体が弱いんだろう、なんて今更なことを思う。

「…淳也、大丈夫か?」
「ああ、寝たらすっきりした」
「そっか、よかった。食堂から戻ったら保健室に運ばれたって聞いて。すぐに来たらまだ寝てたから」

 転入生の言葉にハッとして首を傾げた。そういえば、誰が淳ちゃんを運んだんだろう…? そこらへんの奴? それは考えにくいか…。可愛い子は体力的に無理だろうし、一般生徒でどこにでもいる奴なら淳ちゃんみたいな美形を運んで何も言われないわけがない。よしちゃんに聞いて俺も知ったからそこらへんは分からないし…。あれ、よしちゃんも知らないのかな? 今思えば何となく何かを隠していたような感じだった気がする。
 考えに耽っていたら、転入生が淳ちゃんに帰ろうと言っているのが耳に入った。俺はそっと様子を窺う。淳ちゃんが困ったようにチラチラこっちを見ている。そんな顔も可愛いなあなんて顔を弛ませていたら転入生もこっちを見た。身を固くして視線が外れるのを待つ。空音くんが転入生にまだ話があるからと言って帰りを促した。ナイス、空音くん! 早く帰ってくれないかな。俺も心の中で催促。
 足音が聞こえて、多分背を向けているだろうと思い、顔をちょっとだけ出す。俺は転入生の背中をじっと睨みつけた。