鷲掴みされながら淳ちゃんの手熱いなあ、なんて思っていると、笑い声を含ませた空音くんが放してやれよ、と淳ちゃんに言う。そこで漸く手が離れていった。


「もー! いきなり顔を掴むなんて淳ちゃんてば酷い!」

 ぷんぷんと怒ってますアピールをやっていると空音くんが凄く小さな声でキモいと漏らした。本当に酷いよね空音くんてば。

「…お前か」

 俺が来たことに喜ぶかと思えば、そんなことなく。かと言って俺のぷりぷり怒っている様子に呆れるわけでもなく。淳ちゃんは複雑そうな顔で俺を見た。

「あっ、何その顔!」
「…いや、別に。つかいい加減離れろ! 顔近いんだよお前!」 
「え〜? あ、もしかして淳ちゃん照れてる?」
「相変わらずおめでたい頭してんな…」

 空音くんの声は聞こえないフリ。別に俺の頭おめでたくないし! 俺の頭の中は常に淳ちゃんでいっぱいだから、とちょっとドヤ顔を浮かべてみる。
 淳ちゃんが体調崩すなんてなあ。もしかして俺のことで悩んでそうなったんじゃないの、なんて思う。俺のこと考えすぎて熱出ちゃったんだったら嬉しいんだけど。
 思わずにたりと笑うと、淳ちゃんが顔を引き攣らせた。訊いてみると、図星だったみたいで、必死に違うと言っている淳ちゃんが可愛らしすぎてどうにかなりそうだった。不思議そうな顔をしている空音くんに話しても良かったんだけど、嫌がってたから仕方なく止めた。仕方なくね。でもその代わりに、淳ちゃんに名前を呼んで貰えることになったから結果的に良かったかな! えへへ!
 淳ちゃんの体調もそんなに悪くなかったし、名前読んで貰えたし、淳ちゃんが可愛かったし可愛かったし可愛かったから俺は兎に角上機嫌だった。でも――。

「失礼します」

 ……あの「転入生」の所為で、機嫌が急降下した。