「翔太?」

 淳也に話しかけられて、我に返る。俺がずっと黙っていた所為か、それとも変な顔をしていた所為か、怪訝な顔をしている淳也に慌てて笑いかける。お姫様抱っこのこと、淳也は知っているんだろうか…? 知らないのかもしれないな。淳也は会長のこと嫌っているから、怒っていてもおかしくはない。

「ちょっとぼーっとしてた。ええと、淳也、もう帰れるか?」
「あー…」

 淳也は歯切れの悪い返事をして、チラリと隣のベッドを見る。不思議に思って俺もそっちを見ると、ベッドは膨らんでいた。誰か寝ているらしかったけど、顔が見えない。……知り合い、なのかな?

「悪い、転入生。まだ淳也に話があるんだ」
「あ、そうなんですか」
「だから先に帰っててくれないか」

 書記さんが相変わらず、淳也に向けるような表情ではなく、無表情で俺にそう告げる。書記さんには、探られているような気がしていつもより緊張してしまう。
 淳也は書記さんの言葉にほっとしたように息を吐いて、悪いな、と苦笑した。

「いや、いいよ。じゃあ俺先に帰ってるな」

 実を言うと、良かったと思っている。淳也を見るのが辛かった。あの会長の顔を思い出すから。……俺って、会長のこと、好きなのかな。そう思うと、尚更淳也とどう接していいか分からなくなる。淳也は、俺に優しくしてくれるのに、俺は何もできない。気持ちも返すことができない。しかも、俺は淳也に対して嫉妬している。会長は俺には優しいけど、……やっぱり、俺のことなんてあんまり気にしてないみたいだった。それなのに淳也は、と思って胸がムカムカする。
 踵を返す際、未だ膨らんだままのベッドが視界に入る。微かに動いて、そこから凄く視線を感じた。好意的ではない、敵意のある視線――あんまり嬉しくないことだけど、ここに来て視線をよく感じることになった。そしてそれが好意的なのかそうでないのか、判別できることも。
 俺に敵意を向けるってことは親衛隊の奴だったのかな、と思いながら俺は保健室を出た。