俺は少し声を潜めて、会長に話しかける。

「…熱、ですか?」
「みたいだな。そんなに高くねえみたいだけど」
「そっか…」

 そこで漸く、俺は淳也の体調を気にしたことに気づいて、罪悪感が胸を占めた。……俺は、淳也の体調に気づかず一人にしてしまって、倒れてしまったんだ…。

「会長はどこで淳也に? もしかして教室に来たんですか?」
「おう。お前に会いにな」

 まあいなかったけど。そう言ってにやりと笑う。思わずドキリとして、咄嗟に目を逸らす。……最近、会長を直視できない。

「…こいつ、なんか思いつめたような顔してたけど、翔太は何か心当たりあるか?」
「え……?」

 俺は目を見開いて淳也を見る。時折辛そうに眉を顰めている。…思いつめていたのか? 全然、気づかなかった。
 会長は黙ったままの俺の頭を軽く叩くと、気にすんな、と言った。

「こいつはあんまり顔にそういうの出さないみたいだからな。気づかないのも無理はないだろ」

 その言葉に少し気持ちが軽くなった。しかし、じゃあ会長はどうしてわかったのだろうという疑問が残る。気になったが、訊くのが怖かった。

「そ、そういえば、あの…淳也をお姫様抱っこしたって、聞いたんですけど」

 吃りながら言葉を紡いだ。その所為で俺が凄く気にしてるみたいな感じになってしまい、顔が熱くなる。

「ああ、したぜ。…何だ、もしかして翔太、嫉妬してんのか?」
「えっ……えっ!?」

 ニヤニヤした笑みを浮かべながら俺に近づいてくる会長。色々な意味で顔が真っ赤になる。し、嫉妬って…!? ぐいっと顔を近づけられて、びくりと肩が震える。ぎゅっと目を閉じた。
 ……。……? しかし、会長は何も言わず、俺は恐る恐る目を開けた。じっと真剣な顔で俺を見てたかと思うと、んー、と何かを考えるような声を出して、離れていく。…な、なんだったんだ…?

「え、えっと…会長?」
「いや、なんでもねえ」

 明らかになんでもないという表情をしていなかったが、しつこく訊くのもと思って、黙る。保健室が静かになった。

「俺が言うのもなんですけど、淳也を連れてきてくれて、ありがとうございました」
「放っておけねえんだよな、なんか」
「え?」
「こいつ」

 淳也を見る顔はとても優しいもので、俺はそれを初めて見た。ざわざわと胸が騒いだ。

「…あ、え、えっと…あ、俺、もう行かないと!」
「は?」
「じゃ、じゃあ俺はこれで!」

 会長が戸惑ったような声で俺を呼んだけど、俺は俯いたまま急いで保健室から出た。胸が締め付けられたように痛い。