(side:翔太)

『放っておけねえんだよな、なんか』

 そう言って笑った顔は、初めて見るような優しいものだった。



 食堂から戻ってくると、教室内で女子のような見た目のちっこい奴らが頬を染めながら興奮したように話していた。もしかして、親衛隊持ちの人でも来たのかもしれないな、と思いながら自分の席を見ると、淳也がいないことに気づいた。サボリ魔である淳也が突然いなくなることは良くあるので、友達の秀に教室のドアで別れを告げて、自分の席へと向かう。しかし、ちっこい奴らの横を通り過ぎたときに聞こえた会話に思わず足を止めた。

「もしかして会長様と中村様って付き合ってるのかな…!?」
「どうだろ〜っ。でも会長様格好良かったなぁ…! 中村様を軽々お姫様抱っこするなんて!」

 ――会長と淳也が付き合っている? お姫様抱っこ?

「なあ」
「げっ、明松…」

 げって言われた…。俺、相変わらず嫌われてんなあ…。無理に仲良くなろうなんてことは思わないけど、ここまで嫌われると傷つくわ。

「何、なんか用?」

 ツリ目の奴――確か、名前は高木だった気がする――が俺をじろりと睨みながら頬杖を付いた。

「えっと…何の話してるのかなって」
「はあ?」

 高木ともうひとり、俺にげっと言った奴――西園寺は顔を見合わせる。そして、高木がああ、と納得が言ったように頷いた。

「アンタ、さっきいなかったんだ?」
「あー、そういえばいなかったね」
「さっき…?」
「そ。今さっき、会長様が倒れた中村様をお姫様抱っこしたんだ」
「中村様って、結構寝顔が可愛らしかったな…」

 何だよ、それ。淳也と会長が…? 突然ムカムカとした感情が胸を支配して、自然と皺が寄った。淳也が倒れた。それよりも、会長が淳也をお姫様抱っこしたということに、胸が痛くなる。
 俺は踵を返して、保健室へと足を向けた。



「失礼、します」

 保健室に入ると、消毒薬の臭いが俺を迎える。静かにドアを閉めると、カーテンの中からひょっこりと会長が顔を出した。俺を見ると、小さく笑みを浮かべる。

「よう、翔太じゃねえか」
「ど、どうも」
「どうした、お前も体調が悪いのか?」

 お前も――その言葉で、淳也が体調が悪いということが事実だと分かった。変に脚色いなければ、お姫様抱っこも本当だということだ。

「あ、いえ。俺は淳也が倒れたって聞いて」
「ああ、それな。熱あったみたいだから、連れてきた」

 手招きされて、俺はベッドに近づく。少し顔の赤い淳也は静かに寝息を立てていた。